「主文、被告人を死刑に処す」。平成以降最悪となる36人の命を奪った青葉真司被告の凶行を、裁判長は極刑をもって断罪した。黙って聞く青葉被告。一報を伝えようと法廷を飛び出す記者の足音、傍聴席から漏れ聞こえるすすり泣き。143日間に及んだ一審判決の日、1月25日の法廷ドキュメント。

 この日も、上下青色のジャージにマスク姿、車いすで法廷に現れた青葉被告。刑務官に押されて証言台に移動した際、傍聴席からは青葉被告の正面の姿が見えた。目線は下向き、所在なげな表情だった。

 増田裁判長はまず、「青葉真司被告ですね」と確認。青葉被告は何か発言したが、被告人質問の際の饒舌なトーンと打って変わり、蚊の鳴くような声で内容が聞き取れない。

 そこに増田裁判長が告げる。「主文は後から言います」。被告の心理に配慮した「主文後回し」は極刑が予想される対応だが、無罪となる可能性もある。

 しかし、続く増田裁判長の発言に少し耳を疑った。「有罪判決ですが、主文は後で言います」。弁護側の無罪主張は、早々に撥ね退けられた。

「妄想」と「責任能力」争点はどう判断されたのか

 最大の争点は、青葉被告の”京アニに小説をパクられた”という「妄想」が、犯行にどの程度影響したかだ。

 青葉被告を精神鑑定した2人の医師のうちA医師は、「妄想の影響は限定的」という診断結果を示し、B医師は「重度の『妄想性障害』で、犯行には妄想の圧倒的な影響があった」と示していた。

 結論から言うと、京都地裁は「青葉被告は心神喪失の状態にも心神耗弱の状態にもなかった」と責任能力を認めたが、意外だったのは、鑑定結果についてはB医師の「妄想性障害」を支持した点だ。(A医師の鑑定結果は「検討が十分になされているとはいい難い」と一蹴されている)そしてこう結論づけられた。

 「妄想性障害は、京アニへの強い恨みという犯行動機の形成には影響した。ただ、放火殺人という手段を選んだことは、やられたらやり返すという被告自身の考え方、過去の事件を調べて得た知識などをもとに選択したもので、妄想の影響はほとんど認められない」

 さらに、犯行直前に十数分間、現場近くで何度も逡巡したことなどを挙げ、「犯行を思いとどまる能力は『妄想性障害』が動機形成に影響していた点において、多少低下していた疑いは残るものの、著しく低下していなかった」と判断した。

「非業の死を遂げた被害者らの恐怖」1時間半かけて量刑を読み上げた

 続いて、増田裁判長が判決文を読み上げる。量刑の部分だけで、約1時間半にも及んだ。

 「突然一瞬にして、さながら地獄と化した第1スタジオにおいて炎や黒煙、熱風などに苦しみ、その中で非業の死を遂げた被害者らの恐怖、苦痛は計り知れず、筆舌に尽くし難い」

 「遺族らは理不尽にも、かけがえのない家族を奪われた。その悲しみや苦しみ、喪失感や怒りは例えようのないほど深く大きい。極刑を望むことも至極当然」

 「被告は、『自分がしたことの大きさから目を背けることが多い』と述べるなど、遺族や被害者らの感情を逆なでするような表現で発言しており、被害者らの実情に十分向き合えていないと言わざるを得ない」

開廷から約3時間後に「主文」言い渡し

 午前10時半の開廷から3時間あまりが経過した、その瞬間だった。増田裁判長が一呼吸置くと、法廷の緊張感が一気に高まった。

「主文、被告人を死刑に処す」

 主文は2回読み上げられた。143日に及ぶ審理の末に下された判決をいち早く伝えようと、次々と記者たちが外に出る。その間、青葉被告は微動だにせず動揺する様子は見せない。増田裁判長から「よろしいですね?」と尋ねられると、青葉被告は深々と頭を下げ、うつむいたまま退廷した。

 判決が読み上げられている間、涙する遺族らも多くいた。全ての裁判を傍聴取材してきた京都支局の取材班も、法廷でこれまで述べられた遺族の言葉などが次々と頭に浮かび、ノートに書き取った文字が滲んでいったことを思い出した。

 法廷のやりとりを20篇以上に書き残した「ドキュメント京アニ裁判」。詳しく伝えてきた青葉被告の生い立ちや経歴は決して「特異」なものでなく、誰にもあり得る環境だと言えた。143日間の裁判で明らかになった事実と、問われた課題を社会全体が共有して、犯罪再発を防ぐ糸口にしていかなければならないことを、私たちも強く感じている。(MBS報道情報局 京都支局 森亮介 國土愛珠 宮腰友理)