阪神甲子園球場を慶応一色に染めた決勝の大迫力応援が話題だ。甲子園を見渡す限り、慶応の応援ばかり……。いやいや、そんなことはない。仙台育英アルプス席にもひときわ輝く応援団がいた。仙台育英主力選手たちのお姉ちゃん、妹で結成された応援団「姉ず」。仙台育英の選手に弟(兄)がいる、という共通点だけでつながった絆。弟たちの勇姿を見つめ、見守り、そして、誰よりも大きな声で熱いエールを送る。「彼女たちが応援すれば選手も活躍する」という須江航監督公認の“神話”まであるほど。そんな「姉ず」にとっても、最後の甲子園。弟たちと共に戦った「姉ず」の思いを聞きました。

〇橋本航河選手の姉・幸音(ゆきね)さん「弟が約束通り決勝の舞台に連れてきてくれて、一生懸命やっている姿を見届けられたので、最高の夏になりました。航河のおかげでこの甲子園というところに来させてもらって、一番長い夏を過ごさせてもらったので、感謝しかないですし、自慢の弟です。『ここまで連れてきてくれて、ありがとう。一生懸命野球をしてチームでどんどん勝ち上がっていく姿をここまで見てこられて、お姉ちゃんとてもうれしかったよ。これからも頑張って』と伝えたいです」

〇橋本航河選手の姉・菜央(なお)さん「ヒットは出なかったんですけど、決勝の舞台に連れてきてもらえて、応援というカタチですけど弟とは一緒に甲子園に参加することができて、とてもうれしかったですし、最高の夏になりました。誇らしくもあり、大好きな存在。『お疲れさま』と言ってあげたいです」

〇高橋煌稀投手の妹・叶帆(かほ)さん「甲子園という舞台で1番をつけて投げられたことが本当に本当にうれしいし、自慢のお兄ちゃんです。普段はどこにでもいる普通のお兄ちゃんなんですけど、マウンドに立つとかっこいい姿を見せてくれる。お兄ちゃんのおかげでここまで来られて、去年も今年もすごく長くていい夏になったなと心から思います。『本当にありがとう』と伝えたいです」

〇尾形樹人捕手の姉・樹(いつき)さん「最高の弟です。樹人なりに抱えていたものは大きいと思いますが、何も見せないで、頑張って陰で引っ張っていてすごいなと思っていました。樹人はこれで終わったわけではないので。この結果を胸に、次のU18に向けて頑張ってもらえたらと思います」

〇湯田統真投手の姉・暖姫(はるひ)さん「満塁やフォアボールなど厳しい場面もありましたが、最後の最後まで何とか歯を食いしばって頑張ってくれたと思います。『長い夏にしてくれて、ありがとう』と伝えたいです」

山田脩也主将の姉・遥さん「すごく誇らしかった。尊敬できる弟です」

 1年前、高校野球界の歴史を動かした仙台育英。東北勢として初めて夏の甲子園を制した。そんなところからスタートした新チーム。常に比較対象は全国制覇を達成したチーム。どこにいっても「王者」や「夏の覇者」という言葉がつきまとう。そんな計り知れないプレッシャーを誰よりも背負ったのが主将の山田脩也選手だった。そんな弟をずっと見守ってきた姉の遥(はるか)さんは、決勝が終わると、涙が止まらなかった。

〇山田脩也選手の姉・遥(はるか)さん「すごく誇らしかったです。決勝まで連れてきてもらって、本当に感謝しかないです。脩也はいろんな人に支えられながらこの1年ですごく成長してくれて。ちょっと頭に来ることとかもあったと思うんですが、それでも歯を食いしばってやってくれて、ここまで連れてきてもらった。普段はお馬鹿ちゃんなんですけど、野球ってなるとすごく真剣で一生懸命な姿勢が伝わってくるので、野球の面に関しては尊敬できる弟です。帰ったら『お疲れさま。ありがとう』と伝えたいです」

 アルプス席で泣く姉とは対照的に、仙台育英の山田脩也主将は表情を一つ崩さずに淡々と試合後の取材を受けていた。そんな山田主将にぶつけた。「試合後、山田くんのお姉ちゃん、涙を流しながら、誇らしげに弟について語っていましたよ」

 すると突然、山田主将の目から涙があふれた。表情は一変。大粒の涙が頬をつたい、言葉に詰まった。「本当に小さい頃から可愛がってもらって、いろいろ迷惑をかけたところもあったんですけど、でもやっぱり、家族がいてくれたから…」

 何度も何度も手で涙を拭いながら、ただひたすらに感謝の思いを続けた。「最後は勝たせてあげることはできなかったんですけど、本当に、お兄ちゃん、お姉ちゃん、いろんなサポートがなかったら自分はここまで成長できなかったので、本当に感謝したいです。18年間育ててくれた親には本当に感謝したいなと思っていますし、日本一を本当に、同じ景色を見たかったんですけど、自分の力が足りずに最後、負けてしまったので……。その中でもしっかり応援してくれましたし、家族の応援が一番支えになったので、本当に感謝したいです。どんなときも仲間がいて、家族が支えてくれたので、自分は日本一幸せものだなと思います」

 極度のプレッシャーから逃げず、家族の支え、感謝の思いを胸に戦い抜いた。立派な準優勝。「人生は敗者復活」――。数多の思いがぎっしり詰まった銀メダルを胸に、グッドルーザーが甲子園に別れを告げた。


(MBSスポーツ局 上原桐子)