ドジャースから発表された大谷翔平選手の通訳を務める水原一平氏の電撃解雇。現地メディアによりますと、水原氏が違法とみられるスポーツ賭博に関与していたほか、大谷選手の資金を流用していた可能性があるということで、その額は少なくとも450万ドル、約6億8000万円にのぼるとされています。
 そして、水原氏は当初、取材に対して「大谷選手が借金の支払いに同意し、水原氏が見ている前で大谷選手が電信送金を行った」と説明。ところが翌日には前日の回答を撤回して「大谷選手は一切関知していなかった」と発言を修正したということです。
 ネバダ大学でカジノ経営を学び、アメリカ大手カジノで内部監査職を務めた経験のある国際カジノ研究所の木曽崇所長に話を聞きました。18兆円の市場があるとされ38の州で合法だというアメリカのスポーツ賭博の実態、その中でメジャーリーグで設けられているルール21という賭博に関する規定など、専門家の解説です。
 木曽さんは今回の疑惑で、水原氏が“違法だと知らなかった”としているということについては、「各球団は賭博教育を従業員にしている。この州でスポーツ賭博はNGですよと言わないわけがない。知らないというのは疑問」と話しています。

◎木曽崇:国際カジノ研究所所長 カジノ専門研究者 ネバダ大学でカジノ経営を学ぶ アメリカ大手カジノにて内部監査職を経験

(2024年3月22日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

――国際カジノ研究所所長の木曽崇さんは、「水原一平通訳と違法賭博」のニュースをはじめに聞いて、どんなことを思われましたか。

もし、試合出場に対して何かしらペナルティが課されるようなことがあると大問題で、そうなって欲しくないな、と思いながら、現実的には、過去にいろんな問題がアメリカの野球界で起こったことがあるので、心配しています。

――水原通訳の違法賭博問題により、ドジャースがペナルティを受ける可能性があるんですか。

ドジャースが、というより、大谷翔平選手が水原さんとの関係の中で、ということです。直接的な影響があるかもしれないし、可能性は否定できません。

「大谷選手を守るために発言を変えているんじゃなかろうか」

――アメリカのスポーツチャンネル「ESPN」が報じた経緯では、そもそもFBIが捜査していたのは賭博業者。そこに大谷選手の口座からたくさんの送金があり、調べていたら水原さんの存在が浮かび上がってきたと。また水原さんの発言については、「大谷選手に賭博の借金の肩代わりをしてもらった。違法とは知らなかった。野球に賭けたことはない」と話していたそうです。ただ、これを受け大谷選手の弁護士が「大谷選手は大規模な窃盗の被害者」と声明を出しました。すると水原さんの発言が「大谷選手は自分のギャンブルや借金について知らなかった」と変わったということです。

個人的には大谷選手を守るために発言を変えているんじゃなかろうかな、とは思っています。ちょっとあまりにも変わり身が短期間で激しすぎます。

――MLBには21の賭博に関する規定があります。①野球の試合で賭けをしたら1年間出場停止とか、②自身が関与する野球の試合に賭けをしたら永久追放、③違法な賭けをしたら適切なペナルティとか。

当然、賭博そのものに対するっていうより、どちらかというとその先の八百長であったり、イカサマであったり、そういったものを防ぐためにこういったルールが定められています。

――今回水原さんの発言は、サッカーなどの賭博はしたけど、野球はしていないということでしたが。

それが事実であれば引っかかってこないということになるんでしょうが、ただし、彼がお付き合いしてたのは、違法な賭博業者・スポーツベット業者と報じられているので、ルール③のペナルティがかかる可能性があります。

カリフォルニア州では違法

――スポーツ賭博は、アメリカの38州でも合法化されていますが、ドジャースやエンゼルスの本拠地があるカリフォルニア州では違法になっています。

カリフォルニアは数少ない非合法の州です。他州の住民でも、カリフォルニアに移動すると、賭博をやってはいけないということになります。今回、彼らがカリフォルニア州に居住して、球団がそこにあるから、違法賭博というカテゴリーになっただけで、もしお隣のネバダ州、ラスベガスがある州に行くと合法で、そこで賭博すると問題は起こってなかったんですよね。

――水原さんは「違法だと知らなかった」という発言をしてます。どう思われますか。

正直申し上げると、それは私はクエスチョンマークで見ています。水原さん自身は元々エンゼルスとか、ずっとカリフォルニア州の球団にいるんですよ。球団は賭博教育を従業員にやっているし、初期の水原さん自身のコメントの中でも「自分はそういう教育を受けてきている」というコメントもちゃんとしてるんです。

ドジャーズ・エンジェルスを含め、カリフォルニア州に所在するスポーツ球団の賭博教育の中で、「この州でスポーツ賭博はNGですよ」って言わないわけがないです。なので「知らない」というのは、ちょっと私は疑問を持って見てます。

合法化が進んだ理由の一つが「ドミノ現象」

――スポーツ賭博を振り返ると、1992年に「各州がスポーツ賭博を合法化することを禁止する」という連邦法ができた。しかし2018年に最高裁判所がその連邦法を「違憲」と判断、それ以降各州が合法化したということです。スポーツ賭博の合法化が進んだ理由の一つが「ドミノ現象」、これはどういうことですか。

一つの州が合法に向かって進み始めると、周囲がそれに引き連れられて、雪崩式に合法化に向かうという形で、周りの中で一つだけが合法化をすると、周辺の、合法でない州の需要をどんどん奪っていくんです。みんなが移動してきて遊び、お金が吸い上げられるだけになるので、周りの人たちは対抗策として、「うちも合法化する」と判断をしがちなんです。これをドミノ現象と言います。

――その中でカリフォルニアが違法にしているのは何か理由あるんですか?

どちらかというと政治的な問題だと私は思っています。アメリカは二大政党制で、共和党と民主党で実はギャンブルに関しては「共和党の方が親ギャンブル政策」をとりがちです。民主党はどちらかというとネガティブです。カリフォルニア州はものすごく民主党が強い地域なんです。なので、ちょっと後ろ向きなのかなとは思います。

――もうひとつの理由「潜在的な需要」というのは。

アメリカにカジノ関連の業界団体があるんですけれど、そこが合法化の前から基礎調査をやってるんですが、実は合法化される2018年より前から、アンダーグラウンドの賭博市場・スポーツ賭博市場の規模があることが推計されていて、急に出てきた需要というより、アングラだったものが合法化されて、表に上がってきたというような状況なのかなと思っています。

――アメリカのスポーツ賭博市場は、なんと18兆円というものすごい規模で、勝敗だけでなくバラエティーにとんだ賭け方があるということです。

例えば、「最初に得点を入れるのはどっちのチーム」とか、ゲームの間中に、いろんな賭けができるので、常にいろんなリアクションがあるんですね。

――日本はどうなのか。ギャンブルではありませんが、totoなど「スポーツくじ」では2022年に1114億円の売り上げがあった、宝くじは8324億円、競馬は3.3兆円、パチンコは11.4兆円、ということなんですよね。

 パチンコに関しては遊戯という呼び方になっています。日本でも実は2年前ぐらいでしょうか。自民党および経済産業省の中の検討会で、「スポーツ賭博の合法化」の検討が行われて、「日本のスポーツ産業の振興の一手段として、それを合法化することがありうるんじゃなかろうか」っていう提言が実は出されたことがあります。その後ちょっと論議が止まっているので、それを誰かが巻き直すとまた新しい機運になるのかもしれないです。

問題は、賭博から最終的に「巨額な窃盗犯の疑い」になっている

――今後の水原さんの捜査はどうなりそうでしょうか。

違法な賭博をやっているとしても、基本的にFBIの捜査は、胴元の摘発に主眼があるので、あまり大きな問題にはならないと実は思ってるんですね。問題は、供述が点々として最終的に今「窃盗犯の疑い」になっている、巨額な窃盗を行っている主体になっちゃってるので、こちらがどう展開するのかなと思っています。特に大谷選手を守るためにそういうコメントをしてるんだとすると、これをどう処理するんだろうと、私は個人的に思っています。