イスラエル軍の地上侵攻が迫る中、ハマスが『イスラエル人の人質』とされる映像を公開。ハマスは約200人の人質を取っているという情報がありますが、ハマスの前最高指導者・メシャル氏は「人質と引き換えに同胞6000人を釈放せよ」とコメントしているということです。200人と6000人では大きな差がありますが、過去にはイスラエル兵1人とパレスチナ人の囚人約1000人の交換されたことがあるということです。この背景について、中東ジャーナリストの池滝和秀さんが詳しく解説。「イスラエル国民の方が自国の人質奪還を重くとらえる傾向にある」とした一方で「相手の正当性を認めてしまうということにつながるので今時点で交渉は考えにくい」と話します。(2023年10月18日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎池滝和秀:中東ジャーナリスト 時事総合研究所の客員研究員 中東の紛争地などを現地で数多く取材

食い違う主張「空爆か、誤発射か」

――ガザ北部の病院爆撃について、主張が食い違っています。ハマスは「イスラエル軍の空爆」と主張。一方イスラエルは「ガザの武装勢力・イスラム聖戦による誤発射」という主張です。まず「イスラム聖戦」とはどんな団体でしょうか。

(中東ジャーナリスト・池滝和秀氏)そうですね、ハマスと並んでパレスチナで活動する武装組織です。ハマスの戦闘員は約3万人と言われますが、イスラム聖戦は約1000人と小規模。エジプトのムスリム同胞団というイスラム組織に刺激を受けて創設された一方で、イランのイスラム革命にも刺激を受けて創設されたというので、イランとか、レバノンの「ヒズボラ」など、シーア派系の勢力との関係が深い団体です。

――それぞれの主張が完全に食い違っていることはどうご覧になっていますか。

(池滝和秀氏)確定した情報が全く出ていないので断定的なことは言えないんですが、いろいろな思惑が交錯しているんだと思います。ガザのロケット弾は手製で、テルアビブに飛んでいくようなものが作られてるんですが、これは確かに誤爆を起こすことも考えられ、今回イスラエルはそう主張しております。一方仮にイスラエルがやったとしたら、ハマスの残虐性というか、そういうことを考えてると思います。

(REINAさん)池滝さんにぜひ伺いたい。武装組織ハマスをはじめ組織構造がかなり複雑で、そこが難しい点だと思うんです。ハマスのリーダーと言われている人物はカタールにいて、多くの幹部はエジプトやクウェート、トルコにいて遠くから指示を出していると言われています。リーダーと言われる人たちが本当の統率力を持っているのか。そしてハマス自体に派閥やグループが存在する中で、独立して行動してしまったりとか、そういう点はいかがでしょうか。

「薬カプセルに紙を巻いて入れ、作戦指示を出している」

(池滝和秀氏)そうです、ハマスは政治部門と軍事部門が明確に分かれていて、今回は軍事部門が単独で動いたんじゃないかと言われています。政治部門に情報が行きますと、簡単にイスラエルに漏洩しますので、政治部門が大きな枠組みを描いた中で、作戦立案を軍事部門が進めていったのではないかと言われています。政治部門もガザにいますので、その人たちで全体の流れは決めていくと思うんですが、軍事部門は、場合によって携帯電話を持ってない人もいて、どうやって情報をやり取りするかっていうと、薬のカプセル(1~2センチ)に紙を巻いて入れて、作戦の指示とかを出している。モバイルを使うと盗聴されるので、そういう形でコミュニケーションをとっている。なので政治部門と軍事部門が密にやり取りするっていうのはなかなか考えづらい。

――さて、ハマスが交渉に人質を利用するのではないかという話です。女性の映像が公開され「早くここから連れ出して」と訴えかけました。ハマスの前最高指導者のメシャル氏は「人質と引き換えに同胞6000人を釈放せよ」とコメントしています。イスラエルにはハマスの6000人が捕えられているのでしょうか。

(池滝和秀氏)私が把握していた数字は4500人~5000人でした。全員がハマスというわけではなくて、パレスチナで投石をしたとか、もう少し重い罪だとイスラエル兵に自爆を試みたなど、何らかの軍事作戦をやろうとした、そういう形で5000人ぐらいが収監されています。

かつて「イスラエル兵1人とパレスチナ囚人1000人交換」

――人質を利用した交渉、2011年にはイスラエル兵1人に対してパレスチナの囚人約1000人を交換ということがあったんですね。

(池滝和秀氏)イスラエルは敵対国家の中東諸国に囲まれていますので、国防を非常に重視するんです。1人のイスラエル兵も絶対取り戻す、という決意で行動していて、要するに取り返さないとイスラエル軍の士気が下がってしまう。

――ハマスは人質約200人を取っているのではないかという情報ありますけど、実際にどうしていくんでしょうか。

(池滝和秀氏)そうですね、イスラエルとしてハマスと交渉することによって相手の正当性を認めてしまうということに繋がりますので、今時点で交渉ということはちょっと考えにくいと思います。

――アメリカのバイデン大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相と会談する、いっぽうパレスチナ自治政府のアッバス議長らとの会談は、今回の病院の爆撃を受けて中止となりました。このあたりのアメリカの立ち回りについて、豊田さんはどのように。

アメリカは応援する姿勢を示すのでは

(豊田真由子氏)アメリカは「世界の警察」をやめたと言われつつも、やっぱりアメリカしか出て行くことはないわけで、元々イスラエル寄りなんですがなぜかというと、ユダヤ系アメリカ人は人口比では2%強ですけれども、政治、経済の影響力をアメリカの中でもっているから。「アメリカはイスラエルの味方だよ」っていうことを国内外にアピールするために乗り込んでいくってことだと思います。一方イスラエルは、ネタニヤフ首相は再登板なんですけれど、人気がなくて、結構政権が揺らいでたんですね。今回のことで危機の中の挙国一致みたいになっているので、やり返さないわけにはいかないってのはイスラエルの言い分ですが、長い歴史を考えると、どっちが正しいとか、良い悪いは、難しいところです。

――池滝さんは今回の会談をどのようにご覧になっていますか。

(池滝和秀氏)そうですね、ネタニヤフ首相にとって、アメリカとの強固な同盟関係を国民にアピールする、一方で軍事支援を引き出したいという思惑があると思います。アメリカは、来年大統領選も控えていますので、「全面的に応援している」という姿勢を示すと思います。