10月17日午前、大阪市の天王寺動物園で、檻の中にいたメスのチンパンジー1頭が外に逃げ出しました。園内では獣医師がチンパンジーに顔を噛まれてけがをしたということです。その後、チンパンジーが園内の木に登っていたところで、麻酔銃が撃たれ命中。約2時間半後、木から落ちて捕獲されました。動物研究家のパンク町田さんは、チンパンジーは「一説には5歳児ほどの知能があるのではないかといわれる」としたうえで、逃げ出した行動について「ゲーム感覚、遊びの一環」の可能性を指摘。「檻から出るまではおもしろかったかもしれないが、出た後は怖くなって木に登っていたのではないか」と分析します。
(2023年10月17日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎パンク町田:動物研究家 NPO法人生物行動進化研究センター理事長 動物の臨床心理士 動物関連での講演や執筆など多方面で活躍

――動物研究家・パンク町田さんの解説です。チンパンジーは知能が高い印象があるんですけども、やっぱり賢いですか。

はい、一説には5歳児ほどの知能があるのではないかと言われています。「(檻から)出たくてしょうがない」という個体もいるでしょうけれど、ゲーム感覚で出ることを遊びとするほど知能が高い、遊び感覚っていうのもあるんです。おそらく檻から出るまでは面白かったかもしれない。もしかしたら、出たこと自体はハプニングだったのかもしれないです。ただ出てしまったら今度は怖くなっちゃったんです。出てからどうしたらいいのか自分でもわからなくなったんじゃないかと思っています。

――現場では麻酔銃が打たれてから確保まで2時間半かかりました。その間、職員が、報道陣や見物客に大きな音を立てないよう呼びかけていました。興奮状態だと麻酔の効きが悪くなるということで、そうした対応だったと思われます。振り返りますと、17日午前10時15分にチンパンジーが逃走し、園内のアナウンスがありました。10時35分、男性獣医師がかまれて負傷しました。獣医師はプロですがチンパンジーに噛まれた、どういったことが考えられますか。

(パンク町田氏)おそらく獣医師は、チンパンジーを制止しようとしたか、何らか処置をする目的で近づいたと思われます。チンパンジーからしますと、プロかどうかなんて全く関係ありません、追い払いたいはずです。チンパンジーも緊張していますので、自分が安心だと思う方向に行動を進めていきますので、安心な方向イコール「攻撃する」という形で出たんだと思います。

結構チンパンジーは実力行使に出るタイプの動物です。ただ実際そこまで好戦的ではないので、本当はもめごとは避けられることなら避けたいんです。ですから人間の方に近寄りたくなかったので威嚇をすることで、どこかに行ってもらいたかったんだと思いますね。いっぽう飼育されているチンパンジーに指を噛まれたとか、耳とか鼻とかまぶたを噛まれた、って結構多いので、顔を噛むというのは本能的に何かあるのかもしれないです。

知能が高いので隙を狙う ゲームとか遊びの一環

――今、天王寺動物園は、各所でリニューアル工事が行われていて、チンパンジー舎周辺でも工事が行われているため、音でストレスをかけないように、仮のチンパンジー舎に移す行程が取られる予定だったということです。動物園側も対策はとっていると思いますが、それでも逃げられてしまったということなんでしょうか。

(パンク町田氏)チンパンジーの場合は、二重扉であるとか、一つの扉に対して二つの施錠とか、基本的な決まりはあるのですが、それでもチンパンジーは知能が高いので隙を狙っているようなものもいます。チンパンジーからすると、ゲームとか遊びの一環です。

――チンパンジー捕獲までずいぶん時間がかかってなかなか麻酔が効かない状態が続いたようですけども、こんなものなのでしょうか。

(パンク町田氏)チンパンジーを一気に寝かすような薬量を使いますと心臓ごと止めてしまう可能性があり、非常に危険ですので、獣医師も考慮に入れたと思います。あと興奮しますと、アドレナリンとノルアドレナリンが出て「動け、頑張れ」っていうふうに脳に働きかけるわけです。そうしますと、麻酔は眠らせようとしても、脳の働きは、「今逃げないと危ないぞ」って指令を出しますので、興奮させないように園から『皆さん静かにしてくださいね』っていう指示があったと思います。

――麻酔銃で怪我をすることも考えられるんですか。

麻酔銃は皆さんが想像されるより針は太いので、痛いのは痛いと思います。ただチンパンジーにとっても人にとっても、安全な方向だと思います。

「とっても甘えん坊で怖がり」な性格ゆえに?

――逃げたのはメスのレモン19歳であす(18日)ちょうど20歳の誕生日という個体。20歳は人間でいうと、どれぐらいの感じでしょうか。

現代人の寿命から割り出しますと、だいたい35歳とか、そのぐらいだと思います。

――レモンの父は現在も動物園で暮らす雄のレックスです。天王寺動物園のブログでは「とっても甘えん坊で怖がり」の性格ですとあります。

(パンク町田氏)やはりですね、人間は好きなんでしょうけど、1回出てしまって他のチンパンジーであればそこまで興奮しなかったかもしれませんけど、怖がりだけに麻酔の効きが遅くなってしまったということかと思います。元通りに戻ることが、僕たちにとっても逃げたチンパンジーにとっても一番幸せなことです。このまま人目につかないところに追いやるのは、チンパンジーも寂しがると思います。