街を歩けばアートが現れ、誰もが気軽に触れることができる、世界に誇れるアートの街へ。大阪・関西万博の会場がある大阪市此花区に今、海外からアーティストが続々と来日しています。

世界中のアーティストによって“ありふれた壁”がアートに!

 街角にある、ありふれた壁。その壁がみるみる姿を変えていきます。壁に描かれるアート「ミューラル」と呼ばれ今注目を集めています。
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 通りかかった人たちも思わず見入ります。

 「えーめっちゃ上手」
 「かっこいいよ」
 「見事なもんやな」

 年齢を問わず気軽にアートに触れ楽しめる空間へ。世界中からアーティストが駆けつけています。

 (スペイン YUBIAさん)「こういうカラフルな絵があることで、みんなの一日が少しでも良い日になれば」
 (中国 Nutさん)「見た人が楽しくなったりポジティブな気持ちを持ったりしてもらえたら」

 大阪のある街を世界中のアーティストの作品が並ぶ世界に誇れるミューラルタウンへ。プロジェクトが進んでいます。

バンクシーに影響与えたと言われる“レジェンド”が描くアート

 大阪・関西万博の会場「夢洲」がある大阪市此花区。住民の約3割が65歳以上で、古くからの家が多く建ち並ぶ地域です。
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 商店街から一本入った道の先にできた人だかり。見つめる先では家の壁にアートが描かれています。デザインを切り抜いた型紙の上からスプレーなどを吹きかけて作るステンシルアートと呼ばれる手法。どこかで見覚えのある作風だと感じる方もいるのではないでしょうか。
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 世界的に有名な正体不明のアーティスト・バンクシー?…ではありません。イギリス生まれのアーティストのNick Walkerさんです。実はバンクシーにも多大な影響を与えたと言われるレジェンドです。
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 (Nick Walkerさん)「いままでここになかった美しい絵を近所で見られるようになることで、この地域に活力がもたらされるでしょう」

 今回の作品は同じくストリートアートの第一人者SheOneさんとの共作です。

仕掛け人「日本は壁画がなかなか描きにくい場所という認識」

 そんな海外の有名アーティストと此花区をつなぐ仕掛け人がいます。「WALL SHARE」代表の川添孝信さん。
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 (WALL SHARE 川添孝信代表)「これはミューラルを一緒にしたアーティストにサインをもらって思い出も込めてコレクションしている感じです」
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 WALL SHAREはこれまで国内外120組以上のアーティストとタッグを組み、130作品以上を手がけてきました。

 (WALL SHARE 川添孝信代表)「世界のアート市場って9兆円くらいあると言われているんですけど、日本って先進国と言われつつも数%未満にとどまっていて、まずはアートに触れるきっかけが重要なんじゃないかなと思って」

 海外では自由に絵を描いていい地区もある中、川添さんは日本でも壁に絵を描くミューラルを広げていくことにこだわります。

 (WALL SHARE 川添孝信代表)「海外のアーティストはすごく日本で描きたい思いを持っている人が多いんですけど、日本は壁画がなかなか描きにくい場所、ミューラルがやりにくい場所という世界でも共通の認識を持っている人が多くて、この場所にいろんなアーティストが表現をできる場所を作っていけたらいいんじゃないかなと」

これまで描かれたのは15作品 どのような仕組みで実施?

 川添さんらが今取り組んでいるのが此花区をミューラルタウンにしようというプロジェクト。アメリカを拠点に世界中で活躍しているNychos(ナイチョス)というアーティストが描いた壁画を見せてもらいました。

 (WALL SHARE 川添孝信代表)「ナイチョスは葛飾北斎にすごく影響を受けている部分があって、あらゆる世界の国々に呼ばれて壁画を描いているんですけど、自分が影響を受けた日本にいままで描いたことがなくて、やっと夢がかなったと」
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 開始1年ですでに海外11か国からアーティストが来日して15作品が描かれました。
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 落書きではなく壁に描くアート、ミューラル。仕組みはこうです。川添さんらはミューラルを描いていい壁主を探します。そこに日本で描きたいアーティストをマッチング。アーティストは日本で描けるならと無料で描くため、壁主も費用がかかりません。スプレー代や交通費などはスポンサーが負担します。

 (WALL SHARE 川添孝信代表)「美術館に行く人もそもそも少ないですし、ミューラルの場合は街そのものにあって、簡単な感想でもいいから言いやすい存在というか、そういうところが僕も大好き」

街の温泉や飲食店にも 店主「にぎやかになったらいいなと思って」

 壁主の一つ、千鳥温泉。このプロジェクトで温泉の外の2つの壁にミューラルを描いてもらいました。
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 (千鳥温泉 桂秀明店主)「にぎやかになって話題になってもらえたらいいなと思って。元々は殺風景な壁だったんですけど、リアルな感じと夜のキラキラしたネオンの中のタクシーというのが、すごいなとよく言われましたね、お客さんに」
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 好評だったことから温泉の壁にさらにミューラルを増やしてもらうことに。多くの人が足を止めて、その様子を見守ります。

 (通りかかった人)「(壁に描かれたタコを見て)たこ焼き屋さんになるの?」
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 (スペイン YUBIAさん)「タコを描いたのは大阪にとって特別なものを描きたくて。大阪にはたこ焼きがありますもんね」
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 串かつ店「串かつ伊万里」の壁に描かれたのは日本とスペインのアーティスト3人による合作です。
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 (日本 Mina Hamadaさん)「外で絵を描いているといろんな出会いがあって、こうやって一緒にコラボレーションできたりとか、いろいろつながっていくのが一番面白いですね」

描く様子を見た人が「壁主になりたい」と申し出ることも

 ミューラルを通じた新たな出会い。絵を描く様子を見た街の人から川添さんにこんな申し出も。

 (飲食店の人)「今オーナーに電話したら、描くものによってはあまりにもえぐいのは困るっていうことで、見に来るって言ってます」
 (川添さん)「ホンマですか」

 新たな壁主の申し出です。他にも…。
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 (近隣住民)「私らのところ塗ってほしいです」
 (川添さん)「どこですか?」
 (近隣住民)「家です、家」
 (川添さん)「ぜひぜひ」

 川添さん、すぐに壁を見に行きます。築50年ほどがたった一軒家でした。

 (近隣住民)「インク余ったらでいいので描いてください」
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 街にミューラルが増えていくにつれ、協力してくれる人たちも増えてきました。

 (理容店の人)「お客さんも、出来上がるの楽しみですよ、と言っていましたよ」
 (川添さん)「本当に?めっちゃうれしい」
 (理容店の人)「見てないようで見ているんですね」
 (理容店の人)「普段みんな止まるもんな、何してんのかなって思うもん」
 (川添さん)「増やしてもいいですか?」
 (理容店の人)「増やしてください。にぎやかにしてください」
 (川添さん)「ありがとうございます」

過去最大の4階建てビル…描くのは中国のアーティスト23歳

 そんな中、新たなアーティストが来日。これまでで一番大きな4階建てのビルに描くミューラル作成が始まりました。
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 中国のアーティストNut。まだ23歳、海外で初めてのミューラルが此花区のプロジェクトになりました。
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 写真と見間違えるような高いクオリティー。白鷺と鯉を5日間をかけて描きあげました。

 (中国 Nutさん)「アーティストとしては本当は多くの人に見てもらいたい。遠くから来てもらえたらいいね」
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 川添さんは今後もミューラルを増やし続け、此花区の街を大きな美術館へ生まれ変わらせようとしています。

 (WALL SHARE 川添孝信代表)「増やし続けるということと、でかい壁をどんどん描いていくこと。イメージはしきれていないんですけど、ミューラルが50とか60とかになった先にはきっと何か変わっているんだろうなと思うので、そこへのわからないワクワクを追いかけてやり続けたいと思います」