和歌山県御坊市を走る“日本一短い私鉄”の紀州鉄道。走行距離はたったの2.7km、西御坊~御坊の5駅を片道わずか8分間で走行します。1日の乗客は約250人。一体どんな人が、どんな目的で、どこへ向かうのか。日本一短い私鉄の1日を定点観測しました。

始発列車が駅に 日本一短い私鉄の1日が始まる

 午前6時15分、始発となる西御坊駅に列車がやってきました。この日の運行を担当するのは運転士の古川強さん(52)です。

 (紀州鉄道 古川強さん)「おはようございます。きょうは最終まで1人で、ここを36回行ったり来たり」
2.jpg
 まもなく出発時間。乗車していた男性の行き先は…

 (取材班)「いつもこの始発に乗られるんですか?」
 (男性)「そうですね」
 (取材班)「いまからどこへ?」
 (男性)「いまから会社へ向かいます」

 男性はシステムエンジニアをしていて、毎朝この始発で通勤しているんだそう。朝早くからお疲れさまです。
3.jpg
 午前6時25分、乗客1人を乗せて日本一短い私鉄の1日が始まりました。

乗車した高校3年生の2人 紀州鉄道はどんな存在?

 午前6時55分、紀伊御坊駅から高校生が乗車。先に乗っていた高校生の隣に座ります。2人は、この日が始業式だという同じ学校に通う3年生。地元が同じのため、よく同じ列車に乗り合わせるんだとか。

 (取材班)「いつも待ち合わせをしている?」
 (高校生)「たまたま同じ列車に乗っているという感じです」
 (高校生)「たまたま同じ列車です。この列車で同じになる分、しゃべる時間も多くなりますよね」
 (取材班)「高校生活で最後の学期になると思うけど、どう?」
 (高校生)「学校に通うことがなくなったら会うことも少なくなると思うので、ちょっとそれは寂しいですね」
 (高校生)「いろいろとこみあげてくる気持ちはありますけど、3学期で高校生活が最後やと思うと悲しい気持ちになりますね」
5.jpg
tetsudou@.jpg
 そんな2人にとってこの列車は…

 (高校生)「ほぼ毎日使っているので、かけがえのない存在だと思います」
 (高校生)「青春時代の時間を与えてくれた、第二の実家のような安心感があります」

 このあと、JRにつながる御坊駅で乗り換えて学校へ。残りわずかとなった高校生活、悔いのないよう楽しんでね。
7.jpg
 “折り返し地点”に到着すると、運転士の古川さんは反対側の運転席へと向かいます。その際、欠かせないのが…

 (紀州鉄道 古川強さん)「ブレーキハンドルっていって、ブレーキをかけるための道具ですね。これを進行方向に持っていって使う。一番大切なものですね」

車内には小学生の姿も 兄弟で始業式が行われる学校へ

 午前7時13分、お母さんに連れられて駅にやってきたのは小学生の兄弟。学校のある2駅先の紀伊御坊まで向かうようです。

 (取材班)「お兄ちゃん寝ぐせすごいね」
 (兄)「起きたばっかやもん」
 (取材班)「いま何年生?」
 (兄)「小学4年生です」
 (弟)「小学3年生です」

 小学校もこの日が始業式。久しぶりの学校に…

 (兄)「しんどいかも…」
 (弟)「ちょっとしんどいかもしれんけど、みんなと会えるのはうれしいです。鬼ごっことかいろんなことがしたい」

 兄弟そろって列車での通学、本当にえらいね。
9.jpg
 そして、徐々に乗客も増えはじめてきました。

 (乗客)「ランニングマシンやプールがあるところへ毎日行っている」
 (乗客)「お稽古事で。車に乗れないもんですから愛用しています」

 午前8時、続々と列車に乗客が入っていきます。その大半の行き先が1駅先の学門駅。目の前に高校があるため、多くの生徒が利用していました。

アメリカからやってきた鉄道系YouTuber『短い!びっくりした』

 午前11時35分、和歌山へ観光にやってきたというアメリカ出身の男性に西御坊駅で出会いました。その目的は…

 (男性)「この電鉄、鉄道に乗りたい」
 (記者)「動画を撮っていましたけど?」
 (男性)「YouTubeビデオを撮りました」

 実は世界各地の列車をめぐっているYouTuberで、紀州鉄道に乗ること自体が彼の旅の目的。乗ってみた感想は?
11.jpg
 (男性)「短い!8分間と知っていた。でも乗ったらびっくりした。でもすごくかわいい、楽しかった」
12.jpg
 この列車を目当てにやってきた人はほかにもいます。

 (東京から観光に来た鉄道ファン)「一応、JRは全部乗ったことがありまして。(Q全部?)はい。私鉄は若干残りがあるという感じで」

 これまでに5000駅以上を訪れたという筋金入りの鉄道ファンで、はるばる東京から紀州鉄道に乗るためにやってきたんだそう。
13.jpg
 実は列車以外にも目的があり、この男性が向かったのは鉄道の廃線跡でした。

 (東京から観光に来た鉄道ファン)「何十年か前に廃止になった区間で、その跡をちょっと見てみたいと思って」

 実は元々、西御坊駅の先には日高川という駅がありましたが、利用客の減少で平成元年(1989年)で廃止。そこまで伸びていた線路がいまだ残っていて、鉄道ファンの中ではこうした廃線跡を巡る人が多いんだとか。

 (東京から観光に来た鉄道ファン)「廃線跡も鉄道趣味の1つの分野というか。いいですね、こういう線路が残っていて」

午後8時すぎ…さまざまな人の思いを運んだ1日が終了

 午後4時5分、紀州鉄道を偶然見つけて乗車したという2人に話を聞きました。

 (乗客)「偶然、無計画でこの列車を見つけて乗ったんですけど、楽しかったです」
 (乗客)「紀州鉄道自体がこの町に必要で、生活に密着した鉄道なんだなって改めてわかりました」
15.jpg
 午後5時3分、通学中に出会った小学生の兄弟と再会。学校が終わり家へ帰ります。久しぶりの学校は楽しかったみたい。

 (取材班)「列車に乗るのは楽しい?」
 (兄と弟)「楽しい」
16.jpg
 列車で長距離を旅した人もいました。

 (乗客)「青春18きっぷの旅です。紀伊半島一周して帰ってきました」
17.jpg
 午後8時16分、往復すること36回、最終列車が西御坊駅に到着です。

 (紀州鉄道 古川強さん)「本当に距離は短いんですけど、これからも末永く走っていけたらと思っています」

 片道たったの8分間。さまざまな人の思いを運び、日本一短い私鉄の1日が終わりました。