『お寺に革命を!』お寺に人々を引き込もうとYouTubeにメイド喫茶まで…型破りな方法でお寺のおもしろさを伝え続けるお坊さんの挑戦に密着しました。
「お寺おもしろいやんって、インパクトのある体験を届けたい」
本殿に響き渡る木魚に合わせて、ドローンにのって自由自在に飛行する仏さま。モーター音をうならせながら右へ左へ。神々しいような、エキセントリックなような、これは一体…。
「ドローン仏です。名前のとおりですけど、ドローンに仏さまがのっている」
そう語るのは龍岸寺(京都市下京区)の住職・池口龍法さん(43)。しかし、なぜこんなことを?
(池口龍法住職)「仏教とのご縁がなかなか広がらない時代になってきているのが現実なので、とにかくお寺に来てもらおうと。お寺に来てもらったら、そこでありきたりの体験ではなくて、ちょっとお寺おもしろいやんって、かなりインパクトのある体験を届けたいなと」
YouTubeで『お坊さんの1週間のコーディネート』を紹介
京の町中に静かにたたずむ龍岸寺。300年以上の歴史を持つ本殿でのお勤めが池口さんの日課です。お寺をたった1人できりもりしている池口さん。境内の掃除はもちろん、法要などの行事ごとや檀家さんのお参りもすべて1人でこなします。
(檀家 榎正さん)「(池口住職は)まあ変わってますな。変わってますで、お坊さんにしては。寺って暗いイメージじゃないですか。それがないのはよろしいな」
21歳の時に僧侶となった池口さん。檀家離れや墓じまいなど人々とお寺の関係が薄れていく現代で、型にはまったやり方だけでは仏教の魅力は伝わらない、と一念発起します。
2009年、若手の僧侶たちと一緒にフリーペーパーを発刊。その名も「フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン」。これが瞬く間に話題に。
(池口龍法住職)「ジュンク堂さんにも行ったり、大垣書店さんにも一時期おいてもらってたりしたかな。次の号を持っていくと減りが早かったりなくなっていたりしたので、それは自分にとっては結構大きな手ごたえですよね。意外と仏教に関する情報を世の中は求めているんだなと」
今ではYouTubeチャンネル「龍岸寺ナムナムTV」も開設。お坊さんの1週間のコーディネートを紹介する動画など、お寺のイメージを覆すような内容ばかり。なぜここまで斬新なことに挑戦するのでしょうか?
(池口龍法住職)「お寺に人が来ないと言いながら、何かお寺の中の人たちは変わろうとするわけではなくて、年がら年中同じことをやっている。朝起きたら山門を開けて、本堂でお勤めして。それが悪いわけじゃないんだけど、人が来ないという現実に対して、それじゃ何も刺さらない。何か変えていかないと人が来ないという状況は変わらない」
「冥土」と「メイド」をかけて…
池口さんはさらなる布教活動を進めていきます。例えば「冥土喫茶ぴゅあらんど」。
(メイド くーたん)「お帰りなさいませ、旦那さま。私、龍岸寺にお仕えしておりますメイドのくーたんでございます。(Qいわゆるメイドさん?)あの世の『冥土』とカタカナの『メイド』をかけてダジャレで最初は始めました」
仏教だけではなく、イスラム教やキリスト教などの専門家を招き、メイドさんと一緒に死生観や宗教観について学びを深めるイベントです。お寺にメイドさん、かなりアグレッシブルな試みですが…。
(池口龍法住職)「気軽にとりあえず宗教に出会ってみましょうと。メイドさん見たさに来ている人も実際にはいると思うんですけど、それきっかけでもいろいろ学びをもらって帰っていると思うので。いつの間にか宗教に目が開いているとなれば、それはそれでいいのかなと」
斬新だけど親しみやすい。そんな池口さんの取り組みをきっかけにお寺を訪れる人たちが増えてきています。
(寺を訪れた人)「名古屋から。ずっと行きたいって思っていたんですけどコロナ禍でなかなか来られなくて」
(寺を訪れた人)「古いものも新しいものも融合するというのがとても斬新で、若い人たちにも足を運んでもらったりできるので、私は応援しています」
「まだまだ魅力があるのに世間に全然伝わっていない」
2児のシングルファーザーでもある池口さん。お寺の仕事に加えて、育ち盛りの子どもたちの面倒を見る毎日です。長男・縁生くん(12)に聞きました。
(縁生くん)「(Qお父さんって普段はどんな人?)愛想よさそう」
(池口住職)「マジか。家の中でいつもニコニコしているかというと、そんなことはなくて、余裕がない時のほうが多いから…」
(縁生くん)「余裕ないとかはしょうがないでしょ」
(池口住職)「あ~結構健気なこと言うてくれるんや」
ハードな毎日を送りながらも新しいことに挑み続ける池口さん。心が折れそうになることはないのでしょうか。
(池口龍法住職)「こんなにおもしろい場所はない、仏教というこんなにおもしろい教えはない。まだまだ魅力はあると思っているのに、それが世間に全然伝わっていない。そこのもどかしさがある間は、まだ何かできるかなという気はします」
御朱印をデジタル上で販売へ ターゲットは“世界”
去年11月、池口さんが訪れたのはWEB制作などを手掛ける大阪のプロダクション。今、新たなプロジェクトを共同で進めているのだといいます。
(池口龍法住職)「プロジェクト名は『GoshuinJapan』。NFT(デジタルアート)を購入するという形で日本のお寺文化を支えてもらう」
御朱印といえば、お参りに行った証としてもらえるものですが、近頃、海外からアート作品としての関心が高く、より世界に発信できる方法としてあえてデジタル上で販売しようというのです。売り上げの一部は参画する寺社仏閣に寄与され、お寺の維持に役立つという仕組みです。
(池口龍法住職)「全国に疲弊しているお寺はいっぱいあるので、そういったところも『GoshuinJapan』を通じて日本のお寺文化が盛り上がっていく方向にシフトチェンジしていくといいのかなと」
「芯の部分が変わらないなら、率先して新しいものを取り入れる」
2週間後。龍岸寺にやってきたのはプロダクションの2人。到着早々、何やらスマートフォンで撮影し始めました。
山門をくぐり…お堂に座る池口さんも撮影。何をしているのかというと。
(池口龍法住職)「お参りに来てもらったということを、オンラインで疑似的にかもしれませんけど、体験してもらえる映像をつくりたいと」
まずは龍岸寺がモデルケースとなり全国への波及を狙います。目指すは現地で参拝しているかのような臨場感あふれる映像です。お寺の参拝体験そのものをデジタル化して世界へ。新たなことに絶えず挑戦し続けることこそがお寺の発展につながると池口さんは信じています。
(池口龍法住職)「初めてのことであっても、それがチャレンジすべきことだと、芯の部分が変わらないものだというふうに思えたなら、率先して新しいものを取り入れていくのがお寺を守る人間の仕事だろうと思っています」