全国的な問題となっている「教師不足」。各自治体では、教員採用試験の受験年齢制限の緩和などで幅広い人材を確保しようとする試みが行われています。そんな中、セカンドキャリアとして教師を目指す42歳の教育実習生に密着しました。

『自分の子どもはいつか手を離れていく…子どもと接していたいなと』

 全校児童380人の大阪市立豊仁小学校。今年8月末、2学期の始業式であいさつしたのが、濱口純子さん、42歳。教育実習でこの学校にやってきました。

 (泉野泰久校長)「これから先生に新しくなろうという人がきょうから1か月間、学校で先生になるための勉強をします」
 (濱口純子さん)「とても緊張しています。早くみんなと仲良くなりたいなと思っているので、学校で会ったときには気軽に声をかけてもらえるとうれしいなと思います」
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 濱口さんは3年生のクラスに1か月間入ることになりました。指導教員の川上まい先生は、35歳で教員歴9年です。
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 濱口さんは川上先生のサポートをします。国語の授業では早速、漢字の丸付けも任されました。

 (丸付けする濱口さん)「字がきれいだね。オッケー」
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 大学の経営学部を卒業後、アパレル業界に就職した濱口さん。31歳のとき、出産を機に退職。専業主婦になりました。けれど、子育てを終えたあとの人生を考えるようになり、去年、大学の通信教育課程に入学しました。

 (濱口純子さん)「自分の子どもはいつか手を離れていくじゃないですか。そしたら、自分が子どもと関われる時間がなくなってしまう。それが嫌だなと思った。子どもと接していたいなと、これから働ける時間は」
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 放課後、授業で気になったことを積極的に質問します。

 (川上先生)「きょうの漢字の丸付けはあんな感じでまたお願いしていいですか?」
 (濱口さん)「あんな感じでいいんでしょうか…正すのがすごく難しくて」
 (川上先生)「その子その子の書きぶりがあって、お勉強がしんどい子もいるし、形がとりにくい子もいるので、書けていたら丸にしています」

公立の小学校教員の残業時間は「平均月98時間」

 教員の定時は午後5時ですが、7時ごろまで教室に残って丸付けをしたり、授業の準備をしたりします。名古屋大学の調査によりますと、公立の小学校教員の残業時間は平均月98時間。過労死ラインを超えています。
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 法律では公立学校の教員に残業代は出ず、「学校はブラック職場」と言われ、なり手は減っています。大阪市では採用試験の年齢制限を今年から59歳まで引き上げ、実質撤廃しました。

実習開始から1週間…『日を追うごとに子どもたちと仲良くなれる』

 実習が始まって1週間。濱口さんが初めて教壇に立つことになりました。国語の授業に臨みますが…緊張で小さなミスを繰り返してしまいました。
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 子どもたちが帰った後の教室。川上先生が子ども役となって夜遅くまで模擬授業を続けます。
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 小学校では体育も担任の先生が教えます。ダンスについていけない子どもを見つけた濱口さん。すかさず声をかけます。

 「せーの!一緒にやろう」
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 このクラスでは、居残った子どもたちに先生が勉強を教えます。個人差に対応するためです。

 (濱口純子さん)「日を追うごとに子どもたちと仲良くなれる。声をかけてくれる回数も増えている気がします。最初はあまり話しかけてくれなかった子も、『先生』って声をかけてくれるようになっているのはすごくうれしいです」

実習も残り2日…授業の中で見えた「児童との関わり」

 1か月の実習も残り2日になりました。校長やほかの教員の前で授業をします。教科は道徳です。

 (濱口さん)「自分ではしてはいけないってわかっているけど、こんなことをしてしまいましたってこと、ありますか?」

 子どもたちの手が一斉にあがりました。

 (児童)「ソファでお皿を持ってご飯を食べました」

 (濱口さん)「どんどん手があがりはじめています。すごいね!」
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 授業を見学した教員は…

 (2年生の担任)「子どもたちが一生懸命先生に話したい!という感じで手がピンとあがっているのが印象的でした。ひとりひとり大事にしてあげようという気持ちで先生が過ごしておられたんだなというのがすごくわかって、とてもすてきやなと」
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 (泉野泰久校長)「子どもと関わるというのをひとつのテーマにして来られたと。子どもらも意見が言いたい、恥ずかしいけど言える、というのは先生と子どもの関係性なんですよね」

 (濱口純子さん)「普段手をあまりあげない子どもも頑張ってあげている姿を見たときはとってもうれしかったです。それが一番うれしかったです。子どもたちも頑張ってくれているんだなっていうことがすごく伝わったので、子どもたちのおかげで授業を最後まで進めることができたかなと思っています」

実習最終日…児童たちから手紙のプレゼント

 実習最終日。子どもたちからメッセージが送られました。

 (児童)「短い間でしたがありがとうございました。これからもいろんなことに挑戦して頑張ってください。濱口先生へ、みんなでメッセージを書きました。読んでください」 
 (濱口さん)「ありがとうございます!みんなありがとう!」
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 子どもにとって教師はかけがえのない存在になり得ることを知り、仕事の重みを改めて感じました。

 (濱口さん)「川上先生の授業じゃなくて、先生(私)の授業でわかりにくいところがいっぱいあったと思うんだけど、だれも文句を言わずに一生懸命に授業にとりくんでくれて、それもとてもうれしかったです。これから4年生、5年生、6年生に向けてみんながどんなふうになっていくのかとても楽しみです。応援しています。1か月ありがとうございました」

 (児童)「先生、行かないで…」
 (濱口さん)「えぇ!ありがとう」

 濱口さんはもう一度教壇に立つため、来年、採用試験を受験します。