大阪・岸和田市出身で世界的に活躍するファッションデザイナー、コシノジュンコさんの過去最大規模の展覧会「コシノジュンコ 原点から現点」が、あべのハルカス美術館(大阪・阿倍野区)で開催中だ。自身が「集大成」とも語る本展では、高校時代から最近までの衣装やデザイン画、映像など約 200 点が一堂に会し、まさにコシノさんの「原点」から「現点」をたどることができる。

 天王寺は、コシノさんが高校生の頃、市立美術館に足しげく通った場所だ。開幕前日に会場を訪れたコシノさんは、「この場所が原点だったと、ここに立って分かった」と喜びをかみしめた。会場入口には、「今はここまで描けない」と本人が語る高校時代のデッサンと油彩画が並ぶ。実家は洋装店を営む一方で、自身はファッションよりも美術に興味があり、美大に進学するつもりだった。「デッサンはすべての基本」、「原点はここにある」と、コシノさんは言葉を続けた。

 文化服装学院在学中に、史上最年少で「装苑賞」を受賞。受賞したことは、洋服を作る環境に育った「宿命」。明るい青が印象的な受賞作は「今でも着たいと思っている」唯一無二の作品だ。

「50 年経っても新しい」大阪万博コンパニオンのユニフォーム

 1970 年の大阪万博開催に際し、コシノさんは黒川紀章氏からコンパニオンのユニフォームを作ってほしいと依頼される。デザインしたのは、ミニスカートにストレッチブーツ、パンツスタイルにボレロ風のコート。会場に展示された 3 体の衣装は、今の時代でも新しく、色あせない。

 会場を進むと目に飛び込んでくるのは、赤と黒が鮮やかな「対極」という展示。形にも意味が込められる。自然や地球、宇宙を「丸」、人間がつくり出す合理を「四角」として表現し、それらを組み合わせた衣装や工芸品が並ぶ。「コンセプトが重要。独自のものは廃れないから」と本人が語るように、コシノさんは長年、自分自身のコンセプトは何かを考え続けてきた。そうして生み出されたのがこの「対極」だ。

 続く「POROPORO」という作品群も、このコンセプトに基づくもの。美術館の大きな窓が開放された空間に並び、衣装に光が反射し、影を映し出す。コシノさんは自身の衣装を説明するときに「合理的」という言葉をよく用いた。光があるから良い影ができることも、衣装が提灯のように収縮し、持ち運びやすいことも「合理的」。同時に、意外性や面白さを求めてデザインしてきたことも、言葉の端々に垣間見える。

「1回だけ着なかったら負けた」コシノジュンコとスポーツ

 自身の衣装は「誰かの記憶に残るための応援団」と語るコシノさんは、近年、格闘技や野球、サッカーなどスポーツのユニフォームや衣装も手がけている。その効果は「1 回だけ着なかったときに負けてしまった」というエピソードもあるほどだ。

 2012 年から衣装を手がけているのが、躍動感あふれる演奏が特徴的な和太鼓エンターテインメント集団「DRUM TAO」。初めてその公演を見たとき、「この人
たちに自分の衣装を着せたら面白くなりそう」と直感したという。コシノさんの衣
装をまとい、今ではブロードウェイでも活躍する。コシノさんの衣装は「着たとたんにスイッチが入る」不思議な力が宿っているようだ。約 2,000 点あるという衣装
のうち、本展では約 30 点が公演の映像とともに展示されている。

 後半に展示されるのは、見どころの一つである華やかな衣装をまとったマネキン。約 25m にもおよぶ作品群は、まるでファッションショーのランウェイさながら。マネキンがまとうのは、2015 年に京都国立博物館で開催された特別展覧会「琳派誕生 400 年記念 琳派 京(みやこ)を彩る」のオープニングショーで、コシノさんが「能とモード」をテーマにファッションショーを行ったときのもの。

 「ファッションショーが静止して見られるのが今回の展示。あまり見る機会がない、見たことがない人に見てほしい」とコシノさんは語る。そばには衣装のデザイン画が並ぶ。デザイン画はまず、ヘアスタイルを先に描き、その後洋服を決めるという。衣装は一見着物のようで、実は「1分で着られる着物スタイル」。コシノさんはこれらを「Tシャツドレス」と呼ぶ。着るのが大変そうな着物のイメージを覆すべく、海外でも簡単に着られるようデザインしたという。

「今日が一番若い」と力強い言葉

 コシノさんの創作意欲はとどまることを知らない。「常に今が一番好き」、「今日が一番若い」と力強い言葉を放つ。19 歳で東京に出たコシノさんにとって、この地で個展を開催することは「大阪への恩返し」。1年半後に迫る大阪・関西万博についても「海に囲まれた場所(夢洲)で、世界につながる万博」と意気込んだ。

 コシノさんは「子どもから大人まで、年齢に関係なく初めての体験をしてほしい。初めて見たものは忘れないから」と望む。常に海外と日本の両方向を見据えてきたコシノさんの作品を通して、日本文化の良さや伝統の美しさを再発見することができるだろう。(展覧会はあべのハルカス美術館で、来年1月 21 日まで開催)