京都大学にある創設14年目の「カレー部」。日々スパイス料理の研究・開発をしている料理サークルです。今年の学園祭で、コロナの影響で4年ぶりの出店となった彼らが考案したのは「カレー出汁茶漬け」でした。『カレーとご飯だけでもおいしい。でも、だしを溶いてスープカレーにしてもおいしい』、そんな画期的なメニューを考案したカレー部の先輩後輩コンビを取材しました。

京大カレー部の師弟コンビらが開発「カレー出汁茶漬け」

 京都大学の年に1度の学園祭「11月祭」、通称NF(NovemberFestival)。飲食ブースが立ち並ぶグラウンドに何やら大行列ができていました。待ち時間は最大40分。みなさんのお目当ては…

 (列に並ぶ人)「カレー部のカレーを食べたくて」
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 「京大カレー部」。創設14年目、京都大学を拠点に活動する料理サークルで、学業の傍ら日々スパイス料理のレシピを研究・開発しています。全国各地に出張出店するなど大忙しの彼らにとって学園祭は一番の晴れ舞台。コロナの影響で出店できなかった3年間を経て、満を持してNFに帰ってきた京大カレー部に密着しました。
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 学園祭の3週間前。部員の住む部屋に中心メンバーが集まっていました。この日が最初の試作会です。

 (藤田昂太郎さん)「(Q今回作るのはどんなカレー?)ひと言で言うなら『カレー茶漬け』みたいなものを作ろうと思っています。だし茶漬けっぽい感じで、だしを敷いて、だしに合うあまり水分の無いカレーを上にのせて、ご飯とカレーだけでもいけるし、ご飯とだしだけでもいけるし、混ぜてスープカレーっぽくしてもいけるみたいなのを作ります。これはとんでもねぇもんを思いついちまったぜと思って」

 レシピの考案者は今回リーダーを任された2年生の藤田昂太郎さん。工学部で物理工学を学んでいて、持ち前の発想力を活かして、学園祭に向けて完全オリジナルの「カレー出汁茶漬け」を開発するといいます。
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 京大カレー部のカレー作りはスパイスを調合するところから。組み合わせは無限大。スパイスの世界に絶対的な正解はありません。
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 先輩としてアドバイスするのは3年生の中嶋貴徳さん。調理以外の仕事も得意なオールラウンダーで、冷静さと経験値を活かして後輩・藤田さんをサポートします。

 (中嶋さん)「スパイスを焙煎するときさ、全部一律にやる意味あんのかなと僕は思っていて。油に入れるときも、上の子たちは最初に入れるけど、この子たちは後にする、とかあるじゃん」
 (藤田さん)「それは正しいな」
 (中嶋さん)「だから焙煎もそれに従うと思うんだよね」
 (藤田さん)「確かにコリアンダーはいつも焦げやすいんだよな…」

奥が深いスパイスとだしの世界

 2人でスパイスのレシピを決め、いざ調理開始です。この日は藤田さんが主にカレーペーストを担当。スパイスを炒って香りを立て、だしに合うようミキサーでピューレ状にした玉ねぎを合わせます。
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 並行して中嶋さんが昆布と混合節からだしを取ります。
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 カレーに鶏肉を合わせて、だしをかけたご飯の上に盛り付け、試作品第1号の完成です。藤田さん曰く、まだ誰も食べたことがない出汁茶漬けカレー、そのお味は?

 (藤田さん)「カレーとご飯はおいしいし、ご飯とだしもおいしいけど、もうちょっとカレー・ご飯・だし全部を混ぜたときの方が…。カレーをだしで溶いたときにおいしいスープカレーになっている、っていうのが目標なので。そこがもうちょっとだなと思います」
 (中嶋さん)「2個の相性だから難しい」

 彼らの専門であるカレーと、扱い慣れていないだし。2つの要素がうまくかみ合っていないようです。さぁどうする京大カレー部。
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 (中嶋さん)「やっぱりカレー部である以上、意識を重きを置くべきはカレーだから、こっちに全力を注いで」
 (藤田さん)「でもやっぱりカレーが一番なのはその通りだと思います」

 カレー部の本分はやっぱりカレー。中嶋さんのアドバイスに沿って、だしの味は変えず、まずはカレーに集中することにしました。

中嶋さん『つい褒めちゃうんですよね、藤田くんのカレーはおいしいから』

 中嶋さんにとって藤田さんは特別な信頼を寄せる一番弟子だといいます。

 (中嶋貴徳さん)「自分が彼にカレーの基礎を教え込んだと僕は思っているので。その彼がこんなに大きくなって。構図としては『俺が作ったカレーをお前も手として仕込んでくれ』って感じなんで、『喜んで!』って感じですね。褒めようと思っていなくても褒めちゃうんですよね、彼のカレーはおいしいから」

 師弟コンビが挑戦する「カレー出汁茶漬け」。一体どんな仕上がりになるのでしょうか?

スパイスを意識し改良重ねるも、今度は『辛すぎるかな…』

 2週間後。学園祭までは1週間。前回を踏まえ、この日はカレーに集中。スパイスの調理方法を工夫するといいます。

 (藤田さん)「いつもホールスパイスはこうやって電動ミルにかけているんですけど、摩擦熱でちょっと温まりすぎて香りが飛んでいる気がしたんで、水を入れて温度が上がるのを防ごうかなと思って。きょうはそれでやってみます」

 カレーの風味を立てるため、藤田さんのアイデアが光ります。
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 (藤田さん)「俺のアイデアが発揮できるのも(中嶋)タカさんがいろいろサポートして好きにやらせてくれるからなんで」
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 そして完成した改良試作品。カレーとだしのバランスやいかに?

 (藤田さん)「俺は辛すぎるかなって思うけど、人に拠るんだろうけど、人に拠る時点でちょっと辛すぎるかなと」
 (後輩の1年生)「懸念点は辛さですかね。辛さの問題が一般受けしないレベルの辛さだったかもしれないと思いました」
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 今度はカレーが辛くなりすぎてしまったようです。1年生の感想も真摯にメモする藤田さん。まだまだ改善点がありそうです。

藤田さん『中嶋さんに褒められることがモチベになっている』

 実は料理歴2年の藤田さん。カレー部に入った去年、中嶋さんが率いるチームでカレーに目覚めたといいます。

 (藤田昂太郎さん)「こんなにカレーにハマるとは思っていなくて。アイデアを褒められたりするのがうれしくてよく作っていますね。先輩の(中嶋)タカさんとかに褒められているというのも、僕は褒められて伸びるタイプだと思うので。(Q中嶋さんに褒められるのがモチベーションになっている?)なっていますね、実は」
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 学園祭4日前。本番に向けてこれが最後の試作会です。改良を重ねてきた成果は…?

 (藤田昂太郎さん)「うまいと思います。薬味の脇役が増えたことで、だしも修飾先がいろいろ増えて、楽しみやすくなっているかなと思います」

 ゆずなどの香りを足したことで、だしの風味がカレーの辛味に追いついたようです。あとは無事当日を迎えられますように。

ついに完成した「カレー出汁茶漬け」…お客さんの反応は?

 そして学園祭初日の11月22日。カレー部の出店ブースの前には開店前からカレーを心待ちにした人たちの列ができていました。
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 そして午前10時半、京大カレー部4年ぶりの学園祭、遂にオープンです!誰も食べたことがない「カレー出汁茶漬け(税込み500円)」、お客さんたちの反応は?

 「おいしい!」
 「すごくスパイスが効いていて、ゆずが入っていて和風の感じもして、おいしいです」
 「めっちゃおいしい!だしとめっちゃ合います」
 「ゆずの香りもめっちゃ効いていて良いです。本当に幸せです」
 「おなか空かせてよかったです」
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 その後も想定を上回る売れ行きで、お昼時になると待ち時間は最大40分。14人の総力体制で「カレー出汁茶漬け」を提供し続けます。あまりの人気にお米を炊くのが追いつかず、あえなく中断するアクシデントがあったものの、行列は一度も途切れません。
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 そして午後3時20分にソールドアウト。藤田さんと中嶋さん、予定より150杯多い750杯の「カレー出汁茶漬け」を売り切りました。

 (藤田さん)「僕がカレーを考えて、みんながなんとかしてくれて、感謝しかないって感じですね」
 (中嶋さん)「すばらしいカレーを考えてくれて、(藤田くんに)感謝しかないですね。(Qいま面と向かって褒めてあげたら?)ちょっと恥ずかしい」
 (藤田さん)「いやー、うれしいです」

 学園祭で生まれた「誰も食べたことがないカレー出汁茶漬け」。その隠し味は師弟コンビ2人の絆でした。