法廷に流れた衝撃的な音声_

「全部なめまわせ」「髪の毛食えや」「それで許したるって言ってんねんで、俺」「はよ飲めや!許したるって言ってんねん!」「一生かけて拷問していこか」

同棲女性(当時18)に執拗に暴行を加えた上、床に広がった血をすすらせ、髪の毛で拭き取らせて口に入れさせたりするなど、常軌を逸した強要行為に及んだ男(22)。女性はその後亡くなった。

男は「前蹴りで蹴り飛ばした」「振りかぶるようにして殴った」などと当時を振り返ったが、その犯行動機はあまりに浅はかだった。

“血をすすらせ” “髪の束を口に” 凄惨な暴行…そして異常な強要行為

山中元稀被告(22)は今年5月7日夜、8日夜~9日未明に、大阪府泉佐野市の自宅で、女性(当時18)に対し、全身を多数回殴る蹴る、髪の毛を引きちぎるなどの暴行を加え死亡させた傷害致死の罪に問われている。

8日夜に始まった暴行では、腹部を踏みつけ、エアガンでプラスチック弾を発射するなどしたとされている。確認された遺体の傷は、160か所以上にのぼった。

さらに7日の暴行時、床に広がった血について「全部なめまわせ」「髪の毛食えや」などと脅し、女性に血をすすらせたり、引きちぎった髪の毛で血を拭き取らせ、その束を口に含ませたりしたとして、強要の罪にも問われている。

11月6日の初公判。入廷した被告は、身長は180cm前後。筋骨隆々の上半身が服越しに伝わってくる。

被告は起訴内容について「相違ないです」と認めた。

被告「家族のように大事な気持ちでいた」しかし実態は…

被告人質問によると、山中被告と被害女性は数年前にインスタグラムで知り合い、今年に入って頻繁に連絡を取り合うようになった。被告いわく、女性から積極的にアプローチがあり、交際・同棲が始まった。

山中元稀被告(被告人質問で)
「不自然なぐらいアピールしてきたので、何かのハニートラップかと思った」
「白浜旅行に行ったり、釣りに行ったり、(被害女性が)プリクラが大好きだったので、それに付き合っていました」
「家族のように大事な気持ちでいました」

しかし2人の関係は、被告が女性を“束縛” “支配”していた面も強かったとみられている。共通の知人の供述調書によれば、「どこに行くにも付いてくるので、自由な時間がない」と女性が述べていたこともあったという。

一方で公判では、女性が被告に「いつも大事にしてくれているのに、ごめん」「これからもずっと一緒にいたいので気をつける」という旨のメッセージや手紙を送っていたことも示された。

男性と女性が“相互依存”しているパターン、あるいは、支配欲の強い男性が“アメとムチ”を使い分け、女性の恋慕の情をあやつるパターンという印象を受けた。

被告と出会い “おかしくなっていった”女性

女性の母親も、被告との関係が深まるにつれ、娘の様子がおかしくなっていったと語る。

女性の母親(証人尋問で)
「いままで理由のないケンカなどなかったのに、娘はかなりイライラしていました。問いただすと、『お前に関係ない』と言われました。『お前』と言われたことも初めてでした」

事件の約2週間前には、すでに手に負えるような状態ではなくなっていた。

女性の母親(証人尋問で)
「『脅されているの?』と訊いたら、『脅されてる』と認めました。『なんであんな男と付き合っているん?』と訊いたら、『あんな男と付き合ってないわ!』と言ってきました」
「錯乱状態、気が狂ったような興奮状態でした」

そして被告と女性のいびつな交際関係は、破滅的な結末を迎える。

一睡もせず自宅で待ち『浮気に激昂』男は凄惨な犯行へ

被告人質問によれば5月7日の朝、女性と山中被告は、大阪市内の駅で合流して被告宅に帰る約束をしていた。女性は当時、接待型の飲食店で働いていた。

しかし、女性は「客とのアフターがある」からと、被告に先に帰るよう促した。被告は「浮気じゃないやろな?」と問い詰めたが、女性は「しゃあないやん。待たせてるから行く」とその場を去ったという。

被告は一睡もせずに自宅で待ったが、帰ってきた女性が化粧も落とし、ヘアセットもおろした状態だったので、浮気と確信。問い詰めると、女性は客と男女の関係になったことを認めた。

激昂した被告は、凄惨な犯行に踏み切る。

女性を突き飛ばしたり、前蹴りで蹴り飛ばしたりして、頭部を複数回壁に激突させる。さらに全身を多数回殴った。床面に血が広がっていく。

「全部なめまわせ」「髪の毛も食え」常軌を逸した強要… 音声の一部が法廷で流れる

さらに山中被告は女性に、床に広がった血をすすらせたうえ、引きちぎった髪の毛で血を拭き取らせ、口に含ませた。そしてその様子を、自らの携帯電話機で動画で撮影していた(被告は犯行後に動画を削除したが、捜査当局が復元し、のちに最大の証拠となった)。

法廷では、その音声の一部が公開された。

(被告)「全部なめまわせ」「髪の毛も食え」「おいしい?」「はよしいや」
(女性)「これだけは…無理」
(被告)「それで許したるって言ってんねんで、俺」

被告の行為はさらにエスカレートし、“カウントダウン”まで始めた。

(被告)「20、19、18、17、16、15…」
(女性)「待って…」
(被告)「待たへんから!」「はよ飲めや!許したるって言ってんねん!」「飲み込んだらええだけやん」「30、29、28、27…」「一生かけて拷問していこか」「はよ飲めや!まじで知らんで!」「口放り込めや!」

静まり返る法廷で、心をえぐる音声だけが響いた。

犯行に及んだわけは…「悲しみや苦しさの入り混じった感情」「アルコールで自制利かず」

執拗な暴行と異常な強要に及んだ理由を、被告は“悲しみなどの感情”と“アルコール”で説明した。

山中元稀被告(被告人質問で)
「悲しさ、苦しさ、いろんな感情が入り混じっていたのと、アルコールが入っていたので自制が利かないような状態でした。一睡もせずに待っていたのに、女性は浮気をしていた。悲しかったので、視界に入った血をなめるように言いました」
「(再び女性が)浮気した際に、証拠として残しておこうと思って(動画を)撮りました」

翌日 女性の浮気に怒りが“再燃”

しかし、女性が死亡したのはこの日ではない。“クールダウン”した被告と女性は、コンビニに一緒に買い物に行き、帰宅・就寝。翌5月8日には一緒に外食し、入浴までしている。

“救えたはずの命”だったのではないだろうか…。

裁判長「一緒にお風呂に入った時に、傷には気づかなかった?」
被告 「お風呂は常夜灯のような感じだった。女性がアザまみれだったかというと、そういう認識はないです」

被告はその後、女性が浮気について“開き直った態度”を取ったために、怒りが再燃してしまったという。この時の感情を問われると、少し語気を強めた。

山中元稀被告(被告人質問で)
「(女性が説明した)浮気の理由が『酔っていて気が浮いていた』『僕にやきもちをやかせたかった』だったので納得できませんでした。女性からアプローチがあり、告白があり、渋々というか、一緒にいる時間が長くなって、付き合うことになりましたが…」

“被害女性と出会った自分は不運だ”と言いたげにも聞こえた。

▼再び始まった凄惨な暴行…「振りかぶるようにして殴った」エアガンも発射
前日に続き始まった、執拗な暴行。

検察官「どのようにして殴った?」
被告 「振りかぶるようにして殴りました」
検察官「エアガンで撃ったのはなぜ?」
被告 「手が痛くなってきたとともに、身近にエアガンがあったので…」
検察官「女性から『やめて』などの懇願はなかったのか?」
被告 「それはなかったです。『ごめんなさい』と言っていました」

女性に生きる力はもはや残っていなかった。死因は出血性ショックだった。

後編では、山中被告が行った偽装工作や、法廷で裁判官から飛んだ厳しい質問、さらに遺族の痛切な意見陳述を詳報する。

(MBS司法担当 松本陸)