独特の雰囲気が漂いファンも多くいる「銭湯」。ただ、近年は若者の銭湯離れも進み、廃業する店も相次いでいます。そんな業界を『銭湯トレカ』で盛り上げようとする“湯船のお湯よりもアツい”ひとりの男性がいます。

ハマる人続出中!「銭湯トレカ」制作者に密着

 京都市内にある銭湯。そこに至福の表情を浮かべる男性がいました。

 (男性)「お湯が柔らかくて、薪で焚いているのでマイルドというか優しい感じなので」

 実はこの男性、ただの銭湯好きではありません。京都の銭湯界隈で沸き起こる“ブーム”の火付け役なのです。
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 それが…「銭湯トレカ」!その銭湯でしか手に入らないということですが、一体どんなカードなのでしょうか?
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 今年8月、京都市内で男性に話を聞きました。

 (男性)「すみません、今お風呂上がってきたばっかりで。名倉湯さんという銭湯に行ってきてさっぱりしてきたばかり」

 銭湯通いは欠かせない日課。この日もお気に入りの銭湯Tシャツを着用。リュックには各地の銭湯を巡って集めたという大量の缶バッジ。この人こそ銭湯トレカの制作者、その名も「銭湯トレカつくりびと」さんです。

 この日は新作トレカの制作中でした。

 (トレカつくりびとさん)「所在地があって、お湯の種類、創業年代ってところが基本のデータです」
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 京都市中京区にある「金山湯」のトレカには「創業1920年代。電気風呂の強さは京都でもトップクラス?」と書かれています。
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 トレカには基本情報に加えて、自身が感じた魅力も一言添えられています。同じく、京都市中京区にある「花の湯」のトレカには「温かみのあるタッチの商品表&注意書きは娘さんの筆によるもの」と書かれていました。

“若者離れ”も進む銭湯…『トレカがあったらほしくて来る人もいるのでは』

 でも、一体なぜ「トレカ」なのでしょうか?

 (トレカつくりびとさん)「お風呂に入るのがきっかけじゃなくても、今までやらなかったようなきっかけっていうのを作って、今までお風呂に入ってこなかった人たちが銭湯に来てくれたら銭湯は盛り上がるし。トレカがあったらトレカがほしくて来る人もいるんじゃないかって」

 近年、若者の銭湯離れも進み、京都府では毎年5軒ほどのペースで廃業しています。銭湯の力になりたいと構想すること2年。会社まで辞めて制作にのめりこんだ結果、熱烈なファンも増えてきました。

トレカ目当てで銭湯巡りする人や…トレードする人たちも

 京都市伏見区の「京都市立辰巳浴場」。開店と同時に訪れた男性がいました。目的は銭湯トレカ。ゲットできてひときわ喜びます。
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 (男性)「引けましたー!奥さんと一緒にトレカを集めに行きながらいろいろな銭湯に行って」

 男性は、まさに「トレカ」きっかけに夫婦で銭湯巡りを始めたといい、1か月足らずですでに9枚コレクト。つくりびとさんを目の前に興奮気味です。

 (男性)「(トレカを)作ってくれた人なの」
 (男性の妻)「トレカ!え!」
 (男性)「一緒に銭湯来るきっかけのつくりびとさん。早く写真撮ってよ。忙しい人やん、きっと」
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 また、銭湯ではコレクターらがトレカだけに、持っていないカード同士をトレードする姿も…。

カード第1号は“トレカ制作きっかけの店”…月に100枚売れることも

 着々とファンを増やしているトレカですが、きっかけになった銭湯があります。それが、京都市下京区にあるカード第1号の「名倉湯」。大きな看板の通り、あつあつ110℃のサウナが自慢です。
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 (トレカつくりびとさん)「大将、こんにちは。きょうもいいお湯わいていますか?」
 (名倉湯 店主・平岡義久さん)「おう、ぼちぼちや」
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 多い時はここに週2回訪れるというトレカさん。いつもどおりのルーティーン、4つの湯船を満喫します。

 (トレカつくりびとさん)「さいっこうですね。井戸水だから気温によってキンキンの時もあれば優しい時もあって、その日その日が最高って感じですね」
 (記者)「これ最高ですね、最高ですわ」

 MBSきっての銭湯好きである森亮介記者も大満足。
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 トレカさんはこうして実際に入って感じたことをもとにカードを制作していて、銭湯での気づきはクイズにもなっています。

 (トレカつくりびとさん)「お店のどこかに(このイラストのものが)あるので、これを探して見つけるっている『さがせ!』っていうコーナーです。これを探してください」
 (森記者)「これですね、この魚みたいな。これでも…すぐに見つけられそうな気がするんですけど」
 (トレカつくりびとさん)「見つけられそうで見つけられない」
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 ということで、調査開始!

 (森記者)「あれじゃないですよね?」
 (トレカつくりびとさん)「あれは猫ですね、ちがいますね」
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 すると森記者が…

 (森記者)「これですか?」

 なんと、鏡の広告に魚が!

 (トレカつくりびとさん)「ああ、そこに魚がいることに初めて気が付きました。ちょっとね、形が…」

 残念!これも不正解。では魚は一体どこに?天井にも、浴室のタイルにも、魚はないようです。お客さんに聞き込んでみると…
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 (森記者)「このマークってどこかで見たことないですか?」
 (客)「いや、見たことない」

 さすがに常連客は知っているはず。

 (常連客)「メダカかなんかちゃうんか」

 (森記者)「30年の常連さんでも見たことないですか?」
 (30年の常連客)「ないね、全くない」

 30年の常連客らをもってしても歯が立たない難易度っぷり。その答え、意外にも入口付近にありました。
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 (客)「あー、なるほど…」
 (トレカつくりびとさん)「クマちゃんがくわえている『鮭』です」
 (客)「絶対わからないですね」

 正解は「玄関の置物のクマがくわえている鮭」。少し難しかったようです。
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 こうしたクイズひとつをとっても遊び心満載のトレカ。価格は1枚200円。売れ行きは絶好調で、この銭湯では月に100枚売れることもあるそうです。

 (名倉湯 店主・平岡義久さん)「銭湯って今集客にどこの店も困っている。カードを作ることで集客が必ず伸びるんですよ。岐阜の方から来てみたり、名古屋から、三重からとかも来はるので。じわじわ増えていったので本当にびっくりはしましたよ」

トレカつくりびとさん『会話が広がっていくのがうれしい。作り手冥利に尽きる』

 その評判は広まり、この日も新たな銭湯にトレカが納品されました。

 (トレカつくりびとさん)「出来立てのトレカです」
 (小町湯 蒔田高明さん)「おー、すごい。まあまあ感動しています。ありがとうございます。ポケモンカードに負けんように頑張ってください」
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 「ふとした瞬間に笑顔が見られる」という下京区にある小町湯でも、早速、この日から番台にカードが並びました。
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 (トレカつくりびとさん)「『ええですやん』というような会話が広がっていくので、(トレカが)そういうツールになってくれるのもうれしい。作り手冥利に尽きる感じです」

 京都府内にある銭湯は100軒ほど。ひとりの銭湯愛から始まったこのトレカブーム、どこまで広がりを見せるのでしょうか。