トルティーヤで町おこしをするメキシコ人。兵庫県丹波篠山市で今年初めて採用された「地域おこし協力隊」の外国人隊員です。移住して半年、自身の夢と地域の活性化のために奮闘しています。
今年8月、兵庫県丹波篠山市後川地区でお祭りが開かれました。演歌が定番のカラオケ大会に今年初めて登場したのが、メキシコの民謡「ラバンバ」。スペイン語で歌いあげるのはウルタード・アルベルトさん(41)、通称ベトさん。丹波篠山市初の外国人「地域おこし協力隊」です。
トルティーヤを丹波篠山の名産品に!41年間の都会暮らしに終止符
今年3月。ベトさんがいたのは東京都です。
(ウルタード・アルベルトさん)「ここを走ったりします。ここの反対側はお台場だからめっちゃでかい建物があります」
ベトさんは東京都心のマンションから丹波篠山へと移る準備をしていました。メキシコシティ出身で、7年前に東京に。
メキシコのときから41年間ずーっと都会暮らし。東京でパン作りを学び、メキシコで店を開く予定でしたが、ある思いから“田舎”で暮らすことを決めました。
(ウルタード・アルベルトさん)「メキシコのパンを日本に持って来たいと思っているんです。そのおいしいパンはトルティーヤといいます」
メキシコの主食、トルティーヤ。トウモロコシを砕いた粉から作られる薄いパンのようなもので、これに具材を挟んだものをタコスといいます。日本ではまだ一部でしか知られていない食材。ベトさん、これを丹波篠山の新たな名産品にしたいと「地域おこし協力隊」として移住することを決めたのです。
地元住民も期待「うれしい」「新しい知識を身につけさせてほしい」
3月30日。ベトさんが丹波篠山に移住してきました。地域の人が用意してくれた空き家がベトさんの新たな住まいです。
(ウルタード・アルベルトさん)「広いですね、東京と全然違う」
これまでに住んだことのない昔ながらの日本の家。丹波篠山キャピタル(地域との調整役)の河口秀樹さんに案内してもらいます。
(ベトさん)「これ(障子)はどうやって直せますか?」
(河口さん)「それは張り替えたら」
(ベトさん)「?」
(河口さん)「糊をつけて張り替えないといけない」
すべてが新鮮な田舎暮らし。ベトさん、少し気がかりなことがあるようです。
(ベトさん)「あいさつは初めてですけど、どうすればいいですか?」
(河口さん)「初めて?」
(ベトさん)「はい。東京では絶対やらないから」
(河口さん)「4月から地域おこし協力隊でここに住みます、お世話になります、と言ってあいさつする」
(ベトさん)「それだけ?」
(河口さん)「それだけそれだけ」
後川地区で暮らす人はたったの363人、165世帯。ほとんどが顔見知りなので「引越しのあいさつ」は重要です。ベトさんのパートナーのウルタード・りかこさん(36)とともにあいさつまわりをしていきます。
この地区では初めての外国人移住者。住民たちからはこんな声が聞かれました。
「風習とかも違うし、変わった新しい知識を身につけさせてほしいです」
「日本語がしゃべれるっていうのは安心しましたね。言葉が通じなかったらどうしようもないし」
「うれしいばかりです。年ばかりいってみんな。集落は若い者がいないでしょ、心細くなってね」
『メキシコから輸入したトウモロコシ』に『地元産の食材』
引越しから2か月たった今年5月。ベトさんのもとに“待望の品”が届きました。それは、メキシコから輸入したトウモロコシです。
(ウルタード・アルベルトさん)「これはピンク。青、赤もある」
日本で作られている種類とは一粒の大きさも色も違い、本場の味を再現するためにはこのトウモロコシが欠かせません。
ベトさん、この種を後川の土地に植えて、ゆくゆくは「後川生まれ」のトルティーヤを作る予定ですが、それはまだ先のこと。まずは地元の人たちにトルティーヤを知ってもらうことが優先です。
(ウルタード・アルベルトさん)「おいしいトルティーヤがないと、ほんとおいしいもの(メキシコ料理)が作れない。これでメキシコの文化が広がってメキシコ料理が人気なものになるかなと思っています」
この日、ベトさんが訪れたのはお隣の土井裕子さんの家。この2か月で土井さんの生活も大きく変わったそうです。
(土井裕子さん)「挨拶はこれ(手を上げる)。いろいろお話できて楽しいですよ」
そんな2人が向かったのは、土井さんのトマト畑。トルティーヤを集落のお祭りでお披露目することになり、そこに挟む地元産の食材を1つずつ集めていきます。
いよいよトルティーヤ作り!しかし輸入した機械に苦戦する場面も
次は肝心のトルティーヤ作り。しかし、メキシコから輸入した機械は一筋縄ではいかないようで、買ったばかりの機械なのになぜか水漏れが。
(ウルタード・アルベルトさん)「流れてますね…やば…」
とりあえずの処置を行いました。そして、前日からアク抜きをしたトウモロコシを機械に投入すると、みるみるうちにトウモロコシが粉に。
なんとか生地が出来上がりました。
次は別の機械を使ってトルティーヤの形に作り上げていきますが…。
(ウルタード・アルベルトさん)「え…?なんか変、逆になっちゃったんだけど…。うーんどうかな…」
この機械もメキシコから輸入したもの。スムーズには動いてくれません。
試行錯誤すること30分、機械が正常に動き生地の成形に成功しました。
お祭りのために用意するのは300枚のトルティーヤ。1枚1枚、丁寧に焼いていきます。
(ウルタード・アルベルトさん)「トルティーヤで何ができるかと考えたら、もうなんでもできる。丼と同じくらいで、いろいろと無限なので。トルティーヤにのせるとタコスになる」
お祭り当日 ベトさんの「タコス」に地元の人たちも興味津々
そして迎えたお祭り当日。ベトさん、地元の人たちに交じって準備をします。
(地元の人)「これメキシコの麦わら帽?」
(ベトさん)「そうです」
(地元の人)「かっこいい」
(ベトさん)「ありがとうございます」
4か月ですっかり後川になじんだようです。
お祭りの会場となるのは廃校になった小学校。
この日のために用意したのは2種類のタコス。地元のきのこを使ったチーズきのこタコスと、後川で採れたジャガイモと玉ねぎとピーマンのタコス。これに手作りのソースをかけて出来上がり。
地元の人の反応は…。
「おいしいです。(Q初めて食べた?)そうです。どんなもんかなと思って1回食べてみたいなって」
見慣れない食べ物なだけにこんな意見も。
「これはおやつ?それとも主食?これ主食言うたらかなわんな」
集落に吹き込んだ新しい風。多くの住民が期待を寄せています。
「後川でも世界とつながれるんだというか、それがネットの世会だけでなくてリアルに会えて食べられてというのはすごく貴重です」
「後川が有名になってくれたらうれしいと思いますし、ベトさんにこれからいろいろ頑張ってもらいたいですね」
(ウルタード・アルベルトさん)「小さい間違いはあるけれど、おいしいタコスができたのでよかったと思います。メキシコの文化はここから広がっていくと思います。後川で広げられたらうれしいと思います」
人口約400人の集落から生まれたトルティーヤが全国に旋風を巻き起こす日がくるかもしれません。
ベトさんのトルティーヤのインスタグラムアカウントは(@dontilla.jp)で今後こちらに最新情報を更新するそうです。