「食物アレルギー」が原因で食べられないモノがあり、夏休みの旅行やお祭りを楽しめない子どもたちがいます。そんな中、重度の食物アレルギーがある子どもたちが参加するお泊りキャンプに密着。『自分で自分を守る』練習に挑戦する子どもたちの様子を取材しました。

重度食物アレルギーがある22人が参加のお泊りキャンプ

 バーベキューや流しそうめんを楽しむ子どもたち。夏休み定番のお泊りキャンプ。しかし、ここに参加した子どもたちにとって、この光景は『定番』ではありません。

 (乳・卵・小麦アレルギーの子ども)「救急車で運ばれたことあるで。クルミとか間違えて食べて」
 (乳・卵などのアレルギーの子ども)「牛乳で症状が出て、(搬送された時)気絶かと思われたらしい」

 参加した22人全員が重度の食物アレルギーがある子どもたち。初めて宿泊行事に参加する子どももいます。そんな子どもたちの1泊2日の挑戦に密着しました。
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 キャンプに参加する小学4年生の島本将伍くん(9)。卵と牛乳などのアレルギーがあるとわかったのは生後7か月の時でした。
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 (母・美咲さん)「全身真っ赤にもなっていたので救急車を呼ぶレベルだったんですけど。年齢が上がってくると、そこまでのじんましんは出ないけれども、お腹が痛いと言ったりとか」

 宿泊行事に参加するのは初めて。普段は親に見守られながらの食生活ですが、ひとりでキャンプに参加するとなると不安はつきまといます。
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 そしてキャンプの荷物に欠かせないのがアレルギー症状の進行を一時的に抑える注射薬「エピペン」です。

 (母・美咲さん)「これはアナフィラキシーを起こしたときに打つものです」
   (将伍くん)「(Q一番の楽しみは?)わたあめ…とバーベキュー」
 (母・美咲さん)「自分で判断してやっていかないといけないようにだんだんなってくるので、そういう方法を学ぶきっかけや機会になればいいなと思って」

「おにぎり」も成分表をしっかりチェック…自分で選び自分を守る

 キャンプ当日の朝、将伍くんの様子は…。

 (母・美咲さん)「きょうは来るとき電車の中で『お腹が痛い』って言って。緊張から来る腹痛だと思います」

 家族と離れて子どもたちだけの1泊2日の挑戦が始まります。
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 最初の挑戦はコンビニエンスストアで昼食用のおにぎりを選ぶことです。

 (乳・卵・小麦アレルギーの子ども)「(Q大丈夫?)いける。これは紅ざけと一部にさけを含むって書いてある」

 自分で選ぶという経験を大切にするのがこのキャンプの特徴です。アレルギーとは縁遠いようにも見えるおにぎりですが、乳成分や小麦が含まれている場合もあり、しっかりと表示を見て食べられるものを探していきます。子どもたちにとっては自分で自分を守るための練習です。
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 そして昼食の後、宿泊する施設に到着。部屋に着くとみんな大興奮です。朝は少し緊張気味だった将伍くんもすっかりハイテンションに。

夕食は「流しそうめん」や「たこ焼き」など…献立の理由は『子どもの憧れ』

 次はお待ちかねの晩ご飯。かばんから取り出したのが…。

 (子ども)「(Qこれって何?)エピペンが入っていて。青いやつを抜いてグーにして太ももの外側にさします」

 全員、食事の場面では常にエピペンを携帯。キャンプには看護師や医師も帯同し、子どもたちが安心して過ごすことができるように万が一にも備えます。
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 夕食のメニューはたこ焼きやハヤシライス、そして流しそうめんなどなど。キャンプを主催したアレルギー患者会「LFA食物アレルギーと共に生きる会」の代表・大森真友子さんは、このチョイスにも理由があるといいます。
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 (大森さん)「今まで子ども会とかのイベントで流しそうめんをやっているけど、通常は小麦のそうめんなので『食べられなくて憧れる』と言っていたので、子どもたちが『食べたいな』と思うものでやりました」

 きょうは小麦を使っていないそうめんや、たこの代わりにこんにゃくが入ったたこ焼きを楽しみます。子どもたち自ら料理の準備に取り組みます。

 (大森さん)「一緒に確認するよ。原材料はしょうゆ、ぶどう糖、砂糖、りんご…」

 用意されたもののほとんどがアレルギー対応ですが、原材料に何が使われているかチェックすることを学びます。みんなで心を込めて作った料理、その味は?
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 (将伍くん)「めちゃくちゃおいしい!」

 憧れの流しそうめんに子どもたちは大盛り上がりです。将伍くん、前日から楽しみにしていたわたあめも満喫しました。

大森さん『自分で危険を回避するすべを見つけられたら』

 この夕食に特別な想いを抱いている子がいました。小6のわかなさん(12)、小麦のアレルギーが特に重く、修学旅行ではこんな経験をしたそうです。

 (わかなさん)「(微量でもアレルギー反応がでるため)みんなが食べているところにいるのもだめだから、違うところで食べないといけないからフードコートで食べました」

 みんなが広島焼きを食べている時に同じ店で食べることができなかったといいます。

 (わかなさん)「きょうは気にせず食べられたし、おいしかったし、よかったです」
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 この経験が子どもたちの一歩踏み出すきっかけになればと、キャンプを開いた理由を大森さんは語ります。

 (大森さん)「キャンプや合宿等は『保護者が同伴してください』ということも多いんですよね。子どもたちが自分で危険を回避するすべを見つけたら、何もあきらめることなくやりたいことをやれるようになるんじゃないかなと」
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 友達と過ごす夜。ワクワクする気持ちが抑えられませんが、あすに向けてもう寝る時間です。

朝食のドレッシングも自分で確認…1泊2日の体験で成長した子どもたち

 2日目の朝。朝食も子どもたちには気を付けることがあるようです。

 (大森さん)「もらった朝食のセットの名前が間違っていないかを確認してください」

 子どもたちに用意されているメニューはアレルギーに応じて少しずつ異なります。将伍くんはスープを5杯飲むなど朝から食欲旺盛です。
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 一方、ひとり不安そうにしている子がいました。気がかりなのはサラダのドレッシング。食べられるものなのか自分で原材料を確認しにいきます。

 (看護師)「大丈夫やで」

 このような経験の積み重ねが自分を守る力につながります。
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 1泊2日の挑戦を終えた子どもたち。始まる前よりもどこか成長した様子です。初めての宿泊行事を終えた将伍くんは次のように話しました。

   (将伍くん)「楽しかった。(Q何が一番楽しかった?)流しそうめんの(鍋の)火をつけるところ」
 (母・美咲さん)「今回のキャンプで体験したことを生かせる場面が多分出てくると思うので、その時にゆっくり自分で判断して何でも進めていけるようになればいいねと言いたいです」

 楽しい思い出と学びがつまった夏休みのキャンプ。この経験を生かして、みんなは次のステップに進みます。