コロナ禍を経て関心が高まる地方移住。漠然とした憧れがあっても、「仕事はどうしている?」「地元の人との関係は?」など不安も多いのが実際のところ。そんな中、兵庫県丹波篠山市で「移住している人」や「これから移住する人」を取材してみると、地方移住の“成功のカギ”が見えてきました。

人口711人の地区 10年前に大阪から移住してきた人

 兵庫県丹波篠山市。自然豊かなのどかな町です。その中でも京都との県境に位置する大芋(おくも)地区。人口711人、11の小さな集落があります。
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 この大芋に10年前、大阪から移住してきた仲谷佳子さん(45)。いまは丹波産のお米を使ったちまきのお店を切り盛りしています。

 (仲谷佳子さん)
 「この辺は日陰が多くて寒い地域なんですけど、お米がおいしいと言われているので、お米を使って何か商品を作りたいなという感じです」
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 8時間煮込んで作るというちまきは月に2000個ほど製造していて、地元の土産物店や全国各地のイベントで売れ行きは上場です。

 (客に説明する仲谷さん)
 「きょうちょうど夏至なので夏至ちまきが節句食なのと、あしたは旧暦の端午節なんですけど、中国でちまきを食べる日なんです。だからちょうどよかったです」
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 熱々で提供されるちまきは丹波産の黒豆など5種類の具材が使われています。

 (客)
 「いろいろ入っているし、おいしい。おなかいっぱいになりそうな感じやね」
 「教えてもらったから、行こうよ行こうよってすごく強い要望があって」

ちまきに使う黒豆を自ら栽培「移住前はサボテンも枯らすタイプだった」

 お店での仕事が一段落すると、仲谷さんは畑へ向かいます。

 (仲谷佳子さん)
 「きょう初植えなんで。(Qこれは何?)黒豆の苗」

 畑で自ら栽培しているのはちまきで使う黒豆です。

 (仲谷佳子さん)
 「(Q移住前から農作業していた?)したことない。サボテンも枯らすようなタイプの私やったんですけど、ここ来たら雨も湿気も多いから、枝豆(黒豆)でも作らんとただの湿気多め生活やなと思って。面白いですよ」
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 大阪市内で居酒屋など3店舗を経営していた仲谷さん。夫と訪れた丹波篠山でその魅力に惹かれ、“自然豊かな町で子育てがしたい”と、2013年に移住してきました。

『直売所で地元の人たちと交流』が大切な日課

 仲谷さんの大切な日課は地元の直売所を訪れることです。

 (仲谷さん)「赤いジャガイモめっちゃおいしいですよね。きょうもあったんや、じゃあもらっていこう」
 (直売所の人)「ありがとうございます」
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 移住生活を続けていく上で、地元の人との交流は欠かせません。

 (丹波篠山に50年近く暮らす矢野泰子さん)
 「仲谷さんがいろんな人を連れてきてくださるから地元じゃない方と話ができたりしてうれしいですね。視野が広がるというか」

 (仲谷佳子さん)
 「移住してきて最初にちゃんと来られるところというか、お話したのがこのメンバーで」
 
 (矢野さん)「いろいろ教えていただいてね」
 (仲谷さん)「こっちがこっちが」

「私らの後に来た移住者はもうあんまりいない」

 この大芋では現在、半数が65歳以上の高齢者。仲谷さんは15年ぶりの移住者でした。その後、10組以上の移住者がやってきたといいますが…。

 (仲谷佳子さん)
 「私らの後に来た移住者の人たちはもうあんまりいないですね、いま。どこに行ったんやろみたいな感じで。それはなんで去っていったのか理由はわからないけど、地元の方の受け入れ体制が慣れていなかったというのもあるかもしれないですね」

先輩移住者から極意を学ぶ!起業を検討する人向けのスクール

 コロナの影響で全国的に地方への移住が注目される中、ここ丹波篠山市でも移住に関する相談件数は急増。移住してくる人も増えています。
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 今年5月、丹波篠山では起業を考えている人向けのスクール「篠山イノベーターズスクール」が開催されていました。ただ、移住を見据えて参加する人もいます。
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 参加者の兵庫県宝塚市在住・外村欣久さん(51)もそのひとりです。

 (スクールで話す外村さん)
 「ドッグカフェをやるのを昔から目標にしていまして、長い間、妻を説得しながら今日にいたっております」

 (外村欣久さん)
 「僕の中では犬と人間の区別をあまりつけたくなくて、カフェの中へ普通に犬も入れるのというのを目標に」

 スクールでは、バスツアーを実施。市内を端から端まで巡ります。
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 (先輩移住者)
 「インターネットだけじゃない人間関係とか、持ち主がとかそんな話でつながって行くので、人のつながりの作り方とか東京だと全然違うやり方になると思う」

 既に丹波篠山で生活している先輩移住者と交流し、移住の極意を学びます。
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 住んでいる人にも協力を得る背景には、思うようにいかず離れてしまった移住者の存在がありました。

 (スクールの運営者 瀬戸大喜さん)
 「ある一定数は地域になじめなくて出ていってしまったという話もちらほら聞くんですね。ちゃんとその人がやりたいことと地域が抱えている課題をうまくマッチできるコーディネーターがいたら、住まいや仕事を続けられたんじゃないかと」

新居は築約70年 移住する家が決定

 外村さんは6月、自宅兼ドッグカフェとなる移住先へ向かっていました。念願だった家がようやく決まったのです。

 (外村欣久さん)
 「ここからの景色が本当にいいんですよね。向かいが栗園なんですけど、向こうにも山が近くに見えて、あと裏も景色がよくて」

 移住先の新居は築70年ほど。ここ最近は空き家となっていて、500万円で購入しました。

 (取材班に話す外村さん)
 「(床を指差して)気をつけてくださいね。(Q抜けそうですか?)たぶん大丈夫だと思うんですけど」
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 畳はボロボロ。リノベーションの必要がありそうです。

不安もあるが…「どういう生活になるか楽しみ」

 コロナ禍が始まる3年以上前から物件を見て回るなど移住に向けて動いていた外村さん。担当の不動産業者は偶然にもこの地区出身。移住への不安を打ち明けます。

 (外村欣久さん)
 「どこまで挨拶に行ったら…本当にこの近所だけでいいのか、そこで区切ってしまうと『ウチには来てないわ』とかあったらなと」
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 (この地区出身の不動産業者)
 「最初にちゃんとご挨拶しておいたら大丈夫。みなさん優しい方ばっかりなんで、たぶん喜ばれていると思います。新しい方が本当に少なくなってきているので、入ってこられてみなさんうれしいですね。ありがたいです」
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 (外村欣久さん)
 「どういう生活になるのかなとか思いながら。いままでと全く違う生活になると思うので楽しみですね」

 未知なる場所への移住生活。新たな一歩を踏み出しました。