2023年、春のセンバツで準優勝した兵庫県の報徳学園。現在、部員は138人います。6月に始まる兵庫県大会を勝ち進んだ先に夏の甲子園が待っていますが、ベンチ入りできるのはたったの20人です。高校最後の夏にかける3年生。し烈なレギュラー争い…。ベンチ外となった選手たちには“特別な試合”が用意されていました。

センバツ準優勝「報徳学園」 春は“応援団長”だった3年生が夏のメンバー入りを目指す

 2023年の春、センバツ準優勝を果たした報徳学園。並み居る強豪を次々と撃破し、「逆転の報徳」としてその名を全国に轟かせました。

 【試合後のインタビュー】
 (報徳学園・4番 石野蓮授選手 3年)
 「(Qスタンドの応援は力になった?)そうですね、打席に立っていても耳に入ってくるくらいすごく大きな応援で」
 (報徳学園・3番 堀柊那主将 3年)
 「スタンドの応援がないと絶対にここまで来られていないと思います」

 チャンスになると巻き起こる報徳の魔曲「アゲアゲホイホイ」。この曲が流れ始めると球場の雰囲気が一変し、チームに勢いを与えます。

 その中心にいたのが応援団長の3年生・大崎元輝くんでした。チームのために声を枯らし続けた春。でも、夏の大会こそは…。

 (報徳学園・応援団長 大崎元輝くん)
 「まずは自分自身もベンチに入って、日本一をとれるように頑張ります」

 春夏で甲子園出場36回を誇る名門・報徳学園野球部。部員は138人もいるため、5つのチームに分かれて練習をしています。Aチームがレギュラーメンバーで、Bチームがベンチ入りメンバー、C~Eチームがベンチ外で、大崎くんはCチームにいます。
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 (大崎元輝くん)
 「夏は絶対に甲子園に行くぞという気持ち。やっぱり『ベンチ入り』を目標に、報徳に入る前からずっと目標にやってきたので。結果が出せるように頑張っています」

 甲子園のベンチに入れるのはたったの20人。センバツ後はAチームにもいた大崎くんは、再びメンバー入りを目指して課題の打撃力アップに取り組んでいました。なんとしても最後の夏はグラウンドに立ちたい…それは自分のためだけではありません。

 (大崎元輝くん)
 「僕、お父さんがいなくて、お母さんが朝早くから仕事に出て行って。いつも僕が落ち込んでいたら励ましてくれていたので。『応援団長いいやん』とめっちゃ言ってくれるんですけど、やっぱり報徳のクリームのユニフォームを着て背番号を付けてプレーしている姿を見せたいですね」
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 小学3年から野球を始め、中学では3番バッター。好打者としてチームに欠かせない存在でした。報徳の野球部だったいとこが甲子園で活躍する姿を見て、大崎くんも憧れを抱きました。
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 (大崎くんの母・喜代美さん)
 「『メンバーに絶対入る』と言って、毎日帰って来てからもトレーニングして、ベンチ入りを目指して頑張ってきていた。一生懸命な姿を見るのって良いですよね」

ベンチ入りは叶わず…母親は練習着を洗いながら『ホッとする半分、半分はさみしい』

 6月16日、バットを持たずメンバーをサポートする大崎くんの姿がありました。

 (大崎元輝くん)
 「サポートメンバーと試合メンバーが分かれたのは2週間前くらいですね。メンバー入りできず悔しさが一番あったんですけど、決まったからには自分にもできることをやろうと」
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 残念ながら目指していたベンチ入りは叶いませんでした。そして、メンバー外となった3年生は、翌日に一足早い引退試合に臨むことになりました。
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 (メンバー外の3年生たちに話す報徳学園の大角健二監督)
 「あした、報徳のユニフォームを着ての最終戦になります。いろんな思いがあってのあしたの最終戦だと思うけれども、報徳のプライドを持ってしっかり最後まで戦い抜いてください」
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 (大崎元輝くん)
 「(Qお母さんにメンバーのことは言った?)はい、もう全部言いました。メンバーに入ることを目標に練習をずっとやっていたので、そこを裏切ったことは申し訳ないと思いましたね」
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 支えてくれた母親のためにも、最後の試合で輝く姿を…。

 (大崎元輝くん)
 「一番声を出してホームランを打てるように頑張ります」
 (母・喜代美さん)
 「ホームランをいまだに見たことがないので、あした見たいです。見せてもらいたいです。あんまり言うとあかんな、力入りすぎるから」
 (大崎元輝くん)
 「入らん入らん。最後やもん」
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 練習着を洗うのもこれが最後。こみ上げてくるものがあります。

 (母・喜代美さん)
 「きょうも頑張ってきたんやなぁと思って、よしよしって思いますね。ホッとする半分、半分はさみしいですね。大変やのに『これが終わるのかな』と思ったらさみしくなるのって何なんでしょうね。絶対に楽になるから良しと思えるはずやのに」

母の前でホームランを!打球はライト方向へ上がり…

 引退試合当日。相手は同じ兵庫県内の強豪・神戸国際大附属高校。

 (母・喜代美さん)
 「これが最後かなと思うとこみ上げるものがあって寝られませんでした。躍動している姿を見せてもらえればと思うので、目にも心にもしっかり焼き付けようと思っています」
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 大崎くんは5番・レフトでスタメン出場。高校生活最後、全力プレーを誓います。お母さんの前でまだ見せたことがないホームランを…。
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 【場内アナウンス】
 「5番・レフト、大崎くん。5番・レフト、大崎くん」

 第1打席、初球からフルスイングするも空振り。そして2球目、打球はライト方向へ上がり、あと少しでホームランという当たり。チーム初ヒットを放ちます。その後もユニフォームが泥だらけになるまで、誰よりも声を出して母への感謝を胸に全力でプレーします。
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 試合も終盤。高校生活最後になるかもしれない第4打席。ホームランがでれば同点の場面で、大崎くんに回ってきました。結果は、高校生活最後の打席でタイムリーヒット。ホームランとはなりませんでしたが、3年間の集大成、母の前で躍動する姿を見せました。
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 (母・喜代美さん)
 「しっかり目にも心にも焼き付けさせていただきましたけれども、やっぱりさみしさがありますね。感慨深いものはあります。(Q本人は『ベンチ入りできず申し訳ない』と言っていたが?)そんなん初めて聞いた。そんな思いがあったんですね。そんなん聞いたこともないし。かけがえのない時間を一緒に過ごせて感謝しています」
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 大崎くん、メンバーより一足早くバットを置きました。

 (大崎元輝くん)
 「悔しい思いはあるんですけど、応援団長という形にはなるんですけど、初戦から日本一の応援ができるように準備していきたいと思います」

 夏の日本一を目指して。次はスタンドから応援団長としてチームを勝利へ導きます。