ロシアと同盟関係の隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領と中国の習近平国家主席が突然の会談。その狙いについて大和大学の佐々木正明教授は「ベラルーシがウクライナ戦争に参戦回避するために中国の和平案を支持した」との見方。また西側の経済制裁に苦しむベラルーシ側が経済再建を意図して中国に接近を図っているのかとの見方も。一方、「中国がロシアに武器供与」との情報がアメリカ側が発信。しかも「ベラルーシ経由で」とのこと。佐々木教授は「ロシアにとって有利に戦争を終わらせるには中国の救いの手しかない」と話します。(2023年3月2日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

ウクライナが自国開発のドローンで攻撃?ロシア・モスクワ防空網の脆弱性浮き彫りに

---大和大学・佐々木正明教授に解説をしていただきます。ウクライナ侵攻は先週、2年目に入りました。まずは最新の情報としまして、ウクライナ側からロシア側へドローンが飛ばされたのではないかと。首都モスクワから約100km離れたコロムナという場所でドローンが墜落しているのが発見されたということです。ロシア国防省によりますと、2か所でウクライナ軍のドローン攻撃があり、電子戦部隊が制圧したということなんですが、これまで基地以外でウクライナ側からの攻撃というのはあまりなかったですよね?

はい。実はですね、去年かなり不穏な爆発があったりとか、どちらがやったかわからないような偽旗作戦の場合もあるんですが、国境沿いで大きな爆発があったりとかしていました。
ただ、このドローン攻撃に言いますと、2点注目しなきゃいけないのは、まずアメリカが武器供与している兵器についてはロシア側を攻撃するようなものを与えていないと。つまりもしウクライナ側の仕業であれば、ウクライナ側が自国で開発したドローンであろうということと、実はこのドローン攻撃は去年12月でもあったんですけども、そこでロシアが防空網の強化をプーチン政権が指示したのですが、今回、脆弱性、つまりモスクワ近くまでドローンが侵攻している、深く入っていますので、果たして防空体制どうなのか。この脆弱さが浮き彫りになったのではないかなというふうに感じています。

---ロシアの国民に対する衝撃というのも少なからずあったのでしょうか?

はい、おっしゃる通りです。去年の9月に動員令があって、ロシア側の兵士がだいぶ戦場に投入されております。ここから大きな不安が起こっております。心配なんですね。そしてこのモスクワ近くまでウクライナ側が深く入っているということがあると、ロシア側の一般の方々の不安がまた高まるのではないかと感じています。

---ウクライナ側が反撃を続けているだけではなく、一方で激戦が続く要衝・東部のバフムトという街なんですが、ウクライナ大統領顧問が「我々の軍は必要となれば、戦略的撤退をするだろう」と。ですからウクライナ側が反撃、押し返しているだけではないということですか?

東部の戦線は、ゲラシモフ参謀総長が総司令官になった後にプーチン大統領は3月までにこの「東部のドネツク州とルガンスク州を制圧せよ」という指示を出している。となりますと、この東部戦線に新しい兵士がどんどん投入されて、そしてこの3月までに2州を制圧したいというロシア側の意図がこの攻撃に現れている。そして3月下旬には、クリミア併合記念日にプーチン大統領、またさらにそこで戦果をアピールしたいというところで、このバフムトの制圧に繋がってるのかなというふうに感じています。

「中国は欧米ではなく、中国主導の和平案で〝地ならし〟したい」

---どちらが押しているということなく、本当に拮抗しているとみえます。そんな中、中国とベラルーシの首脳会談が日本時間のきのう夜に行われたということで、中国がキープレーヤーとなるのかということです。ロシアのプーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領というのは盟友関係、両国は軍事的な同盟関係を結んでいる。そしてこのロシアと中国の関係というのがよく見えてこないんですが、中国がベラルーシのルカシェンコ大統領を招待する形できのう会談がありました。表面上見えていること、発表されていることと、裏でこんなことが行われているかもしれないということが違うようなので、佐々木先生にも聞きます。まずは見えていること。ベラルーシ側としては西側ヨーロッパなどの制裁による経済悪化を避け、不況を出したい。つまり中国の和平案を支持して自分らの参戦を避けたいというような思惑があるのでしょうか?

ベラルーシ・ルカシェンコ大統領は中国・北京に呼ばれまして、最後は晩餐会まで中国が手厚いもてなしをしたということも報じられています。そしてルカシェンコ大統領は今、西側の経済貿易体制というのが崩れておりますので、やはり中国という大きな大国、経済大国に乗っかってですね、この戦争によってダメージを加えた経済を立て直したいという意図は明確にしております。その裏で、実は習近平国家主席が侵攻2年目に前後して発表した和平案について、ルカシェンコ大統領をまず切り崩しをして、ベラルーシ側も乗っかかる体制を作りたい、それがこの大きな会談の意図だと思います。

---中国側は和平案の地ならしがしたいと。欧米の戦争終結、つまり欧米の考えるシナリオで戦争を終えるのではなくて中国のやり方で終わらせたいんだという思いがあるようで、この辺は立岩さん「終わるんだったらいい」と思っていいのか、どうご覧になっていますか?

(ジャーナリスト立岩陽一郎氏)
戦争も終わるんだったらいいわけですよ。だけどそう簡単にいかないでしょ。意外なんですよ、大国がその調停に入ってうまくいくケースってのは実はそんなにはない。例えばPLOとイスラエルが和平をするとき、オスロでやった。つまり北欧ノルウェーが仲介するわけですね。実は大国が力を背景に、両者合わせるっていうのはあんまりうまくいかないんですよ。つまり、どこかにそれは戦略的な皮算用があるからっていうのが見えすぎてしまうので。だから私は、逆に日本とかね。実はあまり関係なさそうな国がちゃんと地ならしをするっていう方が早いんじゃないかと思います。だから期待はするけども、そう簡単ではないでしょうね。
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---確かに中国の和平案を見ていきますと、どこまで真剣に本気で考えているのかというのがわかりにくい。12の項目が和平案に書かれているのですが、具体的なことは書かれていない。佐々木先生はこの12項目、注目はどこでしょう?

1番と10番だと思いますね。まず10番の『一方的な制裁をやめる』についてですが、西側がロシアに対して対ロ制裁網を敷いています。2年目に入っても強化している。この制裁をやめるというのは、ロシアへの制裁をやめさせる、つまり国際社会、特にG7を主導とするウクライナ支援国をやめさせるというようなものが入っています。1番の『国家の主権を尊重』となりますと、これは今、ウクライナが奪還しようとしているクリミアに対しても当てはまる、国家の主権が当てはまるのはクリミアも入っておりますから、ここはウクライナ側の主張を飲んでいるということだと思います。しかし、和平案は双方受け入れ可能でなければいけない。となりますと、4月に習近平国家主席がモスクワ入りするということも言われおります。この1か月2か月の間に、果たしてこの12の提案について具体的なロードマップだったりとか、具体的な和平策を現実化するようなものが出てきたときにどういう反応するのか?この10番に対してはゼレンスキー大統領からもう既に否定的なコメントが出ていますね。

---国家の主権という言葉に含まれているのかもしれませんが、そこにウクライナとして大事な領土とか国土とかの明記はないと考えていいのですか?

つまりロシア側の認識とウクライナ側の認識っていうのは、領土一体性や国民主権とかが違っているんですね。ここが最も重要な和平に対する大きなポイントとなるんですが、中国の和平案にはそこが具体化されていない。となりますと、トルコのエルドアン大統領がこれまでは仲介交渉していましたが、ここが大きな大きな難点なんですが、さらにハードルが高いなという認識は持っていますね。

---中国の「実はこんな狙いがあるかもしれない」という裏側を見ていきましょう。「中国が実は今回の首脳会談で武器供与するという話をしているんじゃないか、本当は発表していないだけで」と見ているのはアメリカなのだそうです。アメリカの指摘として、中国がロシアに無人機、例えばドローンのようなものを100機供与することを検討、こんな情報があるので、今回のベラルーシと中国の会談は、間にベラルーシを挟んでいるだけで、実はそういう話し合いをしているんじゃないかと。また「戦争研究所」というアメリカの機関は「中国がロシアに殺傷能力のある兵器を供与するときはベラルーシを経由させる可能性があるだろう」と指摘していますので、今回の会談は実は何が話されたか?佐々木先生、実際どうなのでしょうか?

各国メディアが、モスクワに今、例えばコカ・コーラがあったりとかアップル製品が売られたりとか、なぜ西側の制裁対象にあるのにそっちに違うものが入ってるのかというのをモスクワの様子を踏まえて報道したと思います。これ並行輸入といい、今、第三国を通じてロシアに入ってきている物資があるんですね。そしてこの兵器についても恐れがあるのではないか。ロシアが今、東部戦線で押し返そうとしていますが、兵器不足、弾薬不足、ミサイルなんかはですね先端半導体が必要で、製造にはそうした最先端のテクノロジーが必要なんですね。これをベラルーシ経由で輸入、つまりロシアがベラルーシから並行輸入する形で制裁対象品を入手しているのではないか。それが今の大きな大きな懸念なんです。そういうところで、この習近平国家主席とルカシェンコ大統領は会談をした。そして軍事的な件について、ウクライナ情勢について何を話したかというのは表に出てきていないんですね。ここで何があったのかっていうのを探る1つのポイントになると。

---これまで例えばロシアが使っていたドローンというのは、イランなどから入ってきたと言われていましたよね?

はい、攻撃用ドローンはイランから入ってきたというのも言われておりますが、一方で、報告書を見ますと、既にロシアは自国でドローンを開発する能力があるというふうにも言われております。では部品をどこから入手してるのかというのがポイントになります。既にトルコだったり、中国だったり。中国企業からですね、バルトだったと思いますが、そこを利用してロシア側に先端半導体が入ってきてますよというレポートもあるんですね。ロシアは国境が広い国ですから、どこから入ってくるのか、そしてベラルーシからが抜け穴になっていると制裁がきかないってことになりますので、ますますこのG7、日本が今度議長国になりますが、ここに注意しなければいけないということが出てくるんじゃないかなというふうに感じています。

ロシア領事が中国の和平案を支持している?だとすると中露ブロックの冷戦構造に戻る懸念

---ロシアは今後どうなっていくのか。在大阪ロシア連邦総領事館のテルスキフ・アレクサンダー総領事は「中国とは長年パートナーシップ関係で、貿易・防衛も協力が進んでいる。もちろん中国の和平案をロシアも支持しています」というふうに対外的には話している。ロシアはこのまま続けても損失が大きくなるだけなので、ロシアに有利な戦争の終結の仕方を迎えるには中国に乗っかる…というのはもう唯一の手段ですか?ロシアにとっては?

和平案の前にですね、プーチン大統領は去年9月に劣勢になったときから和平交渉というのを重要視するようになります。つまり、こういうチャンネルでですね、アピールするようになったんですね。損失が膨らむ、犠牲も膨らむとなりますと早く交渉に応じて傷が少ない形で、ロシア側に有利になるように戦争を終わらせたいっていう意図です。そしてテルスキフ総領事がおっしゃいましたように、ちょっとここまでね、中国の和平案を支持するということに関して、ロシア側の報道、もしくは大統領の言葉だったり、入手してることはあんまり記憶にないですね。つまり、もう既にロシアはこれを受け入れた形になっている。もしこれがロシア寄りの和平案になってきますと、逆にこの中露ブロック、つまり戦争が終わるとか終わらないんではなくって、この21世紀の世界の中で中国とロシアのブロックが出てくる。そうなりますと、戦争が終わっても、冷戦構造のようなことが起こらないのか。20世紀の繰り返しのようなことが起こらないのか。中国の習近平国家主席の提案というのは、そうしたかけも含んでいる。そうした逆のパターンも出てくるということも考えなくてはいけない。つまり習近平国家主席の和平案については、それがとても注目されることだと思います。〆