きょう3月8日は国際女性デー。ジェンダー平等や女性のエンパワーメント(力を与える)を改めて考えるきっかけになる日ですが、日本の実情をみれば、女性の働きやすさランキング29か国中27位(2024年・英誌エコノミスト)、ジェンダーギャップ指数146か国中125位(2023年・世界経済フォーラム評価)、全上場企業における女性役員割合10.6%(2023年・内閣府まとめ)。さらに男女賃金格差は21.3%あって先進国平均12.1%のほぼ2倍(2022年・OECDデータ)…など、きわめて「残念」なことばかりです。

プロバスケ『Bリーグ』理事の半数が女性に!

 それでも、今後に大きな変化をもたらすかもしれない動きが、スポーツ界に見られます。昨年9月に発表された公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)の理事・監事の新体制。特筆すべきは理事15人中、外部理事枠の7人全員が女性となったことです。割合は47%、ほぼ半分です。監事も2人中1人が女性です。

【Bリーグ外部理事(肩書一部省略)】

栗本 京さん   株式会社ルイーズ 代表取締役
田中 エリナさん 愛媛プロレス運営会社会長 松山市議会議員
中根 弓佳さん  サイボウズ株式会社 執行役員/人事本部長兼法務統制本部長
浜田 敬子さん  ジャーナリスト
道越 万由子さん 株式会社BEYOND 代表取締役
村松 邦子さん  株式会社ウェルネス・システム研究所 代表取締役
安田 結子さん  株式会社ボードアドバイザーズ 取締役副社長
(他8人の理事はBリーグ関係者の男性)

【Bリーグ女性監事】
若松 牧さん   株式会社ZEALS経営管理部長/サロウィン株式会社監査役

「ちまちまやるんじゃなくて思い切ってやる」

 競技団体の理事会を、「企業の取締役会のようなもの」と捉えるならば、Bリーグの女性理事割合47%は、全上場企業の女性役員割合の10.6%に比べてもはるかに高く、画期的な構成です。しかしなぜ、男子バスケットボールのBリーグで、それが実現できたのでしょうか。

 「ちまちまやるんじゃなくて思い切ってやる」そこには団体トップの「並々ならぬ覚悟」がありました。

 決断したのは、「女性の視点が欲しかった」と言い切るBリーグのチェアマン島田慎二さんです。島田さんは、2026年に予定されているリーグの大改革に向けて、スポーツ以外の分野からのプロフェッショナルで多角的な意見が必要であることや、Bリーグは女性や子どものファンが多く、ターゲットゾーンの観点からのアドバイスを求めていることを理由に挙げました。

 女性の登用について、「ちまちまやるんじゃなくて、思い切ってやることが大事」と思った島田チェアマンは、外部理事を全員女性にしたい旨をBリーグ役員に伝え、賛同を得ました。数十人の女性候補者を洗い出しましたが、「みなさん甲乙つけ難かった」ほど人材が豊富だったそうです。

 日本では、ポストは男性のものという意識がまだまだ強く、女性の登用については、「女性の意欲が低い」「ポストに見合った女性の実力者がいない」などとされて、政府の『指導的地位の女性割合を30%程度達成』という目標も叶わず、当初の2020年から2030年の達成に後ろ倒ししているのが現状です。

浜田敬子さん「決断し改革を進めることはトップにしかできない」

 そんな環境下での島田チェアマンの決断について、理事の一人でジャーナリストの浜田敬子さんは、「先に結論を決めたのがすごい」と指摘します。浜田さんによると、「半分を女性にすることを決断し、改革を進めることはトップにしかできないこと」で、登用人数だけでなく、リーグが必要とする分野や強化したい分野をまず決めて、それに沿って人選をしていった島田チェアマンの手法は、能力ある女性を探し出す『お手本』だと評価しています。

 島田チェアマンが重視したのは「名前より実績」。理事の女性たちは、マーケティングやダイバーシティ、国際戦略、メディア対応などのスペシャリスト。理事会では、それぞれの専門分野にもとづいた意見だけでなく、経営やグローバルな観点、人材育成、リスク管理など多重的な意見が交わされていて、こうした議論に、島田チェアマン自身も刺激を受けています。

 さらに理事会に参加するBリーグのマネージャー20数人も、外部理事らが示す一般企業的な観点を知って、「まるで研修を受けているような学び」と良い効果を感じているそうです。それに加えて女性理事たちの発言や立ち居振る舞いは、Bリーグで働く女性にとってのロールモデルとなり、彼女たちの成長にも寄与するといった良いサイクルが生まれていると、島田さんは感じています。

「忖度せずズバズバ言う、これがいい」

 ところで2021年に、東京オリ・パラ組織委員会の森喜朗会長(当時)が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言したことが大きな波紋を広げました。女性がたくさん入っているBリーグの理事会はどうなのでしょうか?

 島田チェアマンは、会議の進行で困ったことは「全くない」と言い切ります。会議がまとまらないのは議事進行をする側の問題で、そこに男女差はないとし、「女性理事のみなさんはBリーグにとって、いいと思うことは忖度せずズバズバ言ってくださる、これがいいんですよ」と力を込めて言いました。理事の浜田さんも、「女性理事の専門性も、年齢も居住地も多様であることがポイントだ」とし、性別以外の多様性も、同質性のリスクを回避することにもつながると考えています。

「パリテ法」の研究者 女性が増える効果は

 女性の数が増えることの効果は研究でも認められています。政治分野で男女同数の候補者擁立を義務付ける「パリテ法」を研究している専修大学専任講師の村上彩佳さんは、「数は力」と言います。

 村上講師によれば、2000年に「パリテ法」が施行されたフランスでは、女性福祉策が増え、男性議員たちも女性に関するテーマが大事な政治課題だと認識するようになって、見落とされてきた課題がきちんと検討されるようになったそうです。

 「女性が入っている理事会は時間がかかる」といった森元会長の発言について村上講師は、「(男性ばかりといった)同質性が高い会議では異議申し立てが出にくいため楽。会議が長くなるのは女性が加わったことによってこれまで見落とされていたものが議題に上がってくるからであって、それに向き合えば物事が良くなる方に進む」と指摘しています。

「女性の登用でマイナスなことはゼロ」

 島田チェアマンの決断について村上講師は、「1人の男性リーダーがうまくやった先例ができれば、あとに続く人たちもとてもやりやすくなる」という波及的インパクトの効果を指摘します。

 Bリーグは2026年の大改革で、これまでも取り組んでいたスポーツによる地域活性化からさらに拡大して、スポーツを軸としたビジネスセミナーやインバウンド誘致、そして貧困家庭のサポートまで幅広い地域との連動を目指しています。

 島田チェアマンは、「いろいろなものを変えていくタイミングで、『理事の半分が女性』という思い切ったことをやれば、スポーツ界にも世の中にも革新のメッセージを伝えられる。女性の登用はポジティブインパクトが大きくて、マイナスなことはゼロです」と胸を張りました。

 このリーダーシップが、Bリーグの発展のみならず女性がより活躍しやすくなる社会へと広がっていくことが期待されます。(MBS東京報道部 石田敦子)