3月10日、レギュラーラウンドの最終節が行われたバレーボール女子のV2リーグ。ヴィクトリーナ姫路が、ホームアリーナのヴィクトリーナ・ウインク体育館で、18戦全勝、ぶっちぎりの強さをみせつけて1位通過を果たした。

 この日64歳の誕生日を迎えたアヴィタル・セリンジャー監督も「長い指導歴の中で、これほどの成績を残した経験はない」というほどの安定感抜群の戦いぶり。18試合を戦って失ったセットは、わずか1セット。他を寄せ付けない圧倒的なパフォーマンスで長丁場を戦い抜いた。その原動力をキャプテンの松本愛希穂選手は、こう語る。「昨シーズン、V1から降格する悔しさを味わった。同時に、応援してくださった方々に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。それでも姫路のファンの方たちが変わらず応援し続けてくれた。なんとしてもその気持ちにこたえたい。その思いが私たちを後押ししてくれた」

井上愛里沙選手「少しずつだが成長を感じることができたシーズンだった」

 最終戦となったこの日も、ホームアリーナをチームカラーのピンクに染めたファンが選手たちを後押しする。相手は大野石油広島オイラーズ。大声援を背に躍動する選手たちが第1セットを25対10で奪うと、第2セット以降も、粘り強さが身上のオイラーズを寄せ付けなかった。

 第2セットは序盤こそリードを許したが、全日本でも抜群の決定力を誇る井上愛里沙選手がコートにたつとムードが一変。サービスエースで試合の流れを引き寄せると、強打で一気にチームを勢いづけた。けがの影響もあって、今シーズンはなかなか納得いくパフォーマンスが発揮できなかった井上選手だが、「このチームにきて本当によかった。けがの具合もあって、なかなか試合に絡むことができなかったが、体のケアやコンディションの回復、フィジカルの強化含めて素晴らしい環境を与えてもらった。実際に、数字の面でも結果が出ている。自分もこのチームと一緒に成長したいと思えるチーム。少しずつだが成長を感じることができたシーズンだった」と振り返り、以前の自分より成長した手ごたえをつかんでいる。

宮部藍梨選手「勝たないといけないという気持ちが強かった」

 勝ち続ける中で、セリンジャー監督が選手とともに意識していたのが、自分たちにフォーカスをあてて、つねに成長し続けること。「自分たちの基準を高く保ち、一人一人が自覚をもって、日々の練習、1試合1試合を成長につなげていこう」と選手たちに訴え続けた。

 それを体現していたのが、おなじく日本代表に選出された宮部藍梨選手。高校や大学時代にはエースとして活躍したが、この姫路では全日本でも起用されることの多いミドルとして、本職のブロックはもちろん、サーブの向上、打点の高さを生かしたスパイクと確かな足跡をのこした。この日も第3セットのラストポイントは、攻撃の形が崩れる中、宮部選手がミドルからライトにまわった攻撃をブロックの上からたたきつけて勝利を手繰り寄せた。「私だけでなく、みんなが、応援してくれる人たちのためにも勝ちたいという気持ち以上に、勝たないといけないという気持ちが強かった。練習を重ねることで、チーム全員がコートの上で、自分たち(の成長した姿)を表現できていることがすごくうれしかった。個人的には、ミドルとしてはまだ2年目。プロとして自信がついたとは言えないが、やるしかないと思っている」と振り返った。

セリンジャー監督「さらにチームのレベルを上げていきたい」

 完璧なシーズン。だが、セリンジャー監督は「あと1試合、ファイナルが残っている。1試合で決まる以上、今までの成績は関係ない。相手より大切なのは自分たち。1試合に向けてさらにチームのレベルを上げていきたい」と更なる進化へ、大一番に向けて手綱を引き締める。

 Vリーグ最後の試合は3月24日。2位ルートインホテルズブリリアントアリーズと3位群馬グリーンウイングスの勝者を待ち受ける。パリオリンピックへの厳しい道のりへ向かう2人も、ファイナルを戦ってから全日本に合流する。井上選手は「ファイナルでは(チームとして)いままでで一番いいバレーをみせて勝ちたい。そのうえで全日本では、これまでの3年間の集大成として自分たちのベストをしっかり出し切って、まずはオリンピックの切符をつかみたい。そこから自分たちの目標であるオリンピックのメダル獲得に向かいたい」と話し、宮部選手も「ファイナルでは、よりいいパフォーマンスができるように全員で準備したい。全日本のチームとしては、オリンピックのメダルを獲ることが目標。そのためにVNL(バレーボールネーションズリーグ)で出場権を獲れるように、チームの一員として頑張っていきたい」と、それぞれファイナルを勝ち切ったうえで世界に向かう熱い胸の内を明かした。

 Vリーグは、この秋「SVリーグ」に生まれ変わる。勿論、ヴィクトリーナ姫路もSVリーグ参入に名乗りを上げている。15チームが参入を表明している中、どのチームが加盟を承認されるのかは現時点では定かではないが、最終戦後のセレモニーで姫路の関係者は、力強く宣言した。「今年の秋は、最高峰のSVリーグに舞台を移します、姫路の皆さん、一緒に戦ってください」

 チームとしても、個人としても、そして組織としても、成長への階段を日々のぼり続けるヴィクトリーナ姫路。これからの奮闘ぶりから目が離せない。


 (MBSスポーツ解説委員 宮前 徳弘)